73歳の名将が示す“いじめ問題”の防ぎ方 目まぐるしいSNS時代に投じた一石「名を名乗れ」

2回戦敗退も、野々村監督「これほど感謝したチームは無い
人生の、指導者としての矜持を示した。第107回全国高校野球選手権は14日、大会第9日目が行われ、第1試合で開星(島根)が仙台育英(宮城)に1-6で敗れた。73歳の“名将”野々村直通監督は「力がない中で本当によくやったと思います。感謝しています」と選手たちの頑張りを労い、さらには高校野球における指導の持論も展開した。
初回に先制点を挙げた。「先に点を取るなんて……驚きましたし嬉しかったです」。しかしエラーなども絡みその裏に2失点。「先制したことで変な緊張感が出たかな」と悔やんだ。その後も強打の仙台育英打線に徐々に点差を広げられ計6失点。8回に1点を返したものの届かなかった。
それでも野々村監督からは感謝の言葉が続いた。「新チーム時は島根で一番弱いチーム。本当に力がなかったのに甲子園に連れて来てくれた。これほど感謝したチームは無いです」。1988年から監督を務め、定年退職を機に2012年に退任したが2020年に復帰。これほどの歴をもって、今年のチームを「歴代最高」と迷わず言い切った。
「本当に差別、区別なく協力してくれた。今までで最高ですよ、ベンチ外とメンバーのつながりが。上級生下級生関係なし。そこに礼儀はあるけど、野球の上手い下手は無しで差別しない。それがこのチームはできていた。補欠になっても妬まず、レギュラーだからといってバカにせず。それを実現してくれた。人間関係づくりが一番です、(いじめの)防止策は」
増えるSNSでの批判「陰からものを言うのは卑怯だ」
選手たちの“人間性”を最重要視してきた。「高校野球は人づくりですから。立派な日本人を育てたい。軽はずみな平和論だけ言うよりも、本当に国に感謝して恩返しできるような子を育てたい」。そんな思いは選手たちにも浸透している。
さらに時代は変化し、SNSとの向き合い方も問題視される。過度な情報発信によるSNSでの批判について、「SNSは見ないですが、陰からものを言うのは卑怯だといつも思っています。うちにも匿名で手紙が届くことがありますが、名を名乗れと」。いつの間にか言葉に熱が帯びていた。
73歳で迎えた夏も終わり、引き際についても考える。ただ、息子が入部した際に親から「3年間見てくれますか?」と尋ねられる事も多い。約束を守る為にも「自分を必要としてくれるなら」と監督業を続ける意向を示した。
最後までグラウンドに立ち続けて人生を終わりたいかと問われると即答した。「それはダメ(笑)。僕はアーティスト、絵描きですから。野球は素人ですから。キャンバスに筆を置きながら死にたいですよ」と笑いを誘った。昭和の男は揺るがぬ信念を持ち、令和の時代で人間性を築き上げる。
(木村竜也 / Tatsuya Kimura)