甲子園史上初を叶えた女子部員 “異例”のユニ姿で記録員…マネジャーが伝えた熱意

家永そらマネジャー【写真:加治屋友輝】
家永そらマネジャー【写真:加治屋友輝】

佐賀北・家永さんが史上初の女性ボールパーソンを務めた

 夢のような2年半だった。第107回全国高校野球選手権は15日、大会第10日目が行われ、第3試合で佐賀北が明豊(大分)と対戦し1-6で敗れた。大会史上初めて女性でボールパーソンを務めた家永そらマネジャー(3年)は「この景色は一生忘れません」と晴れやかな表情で笑った。

 家永さんは青藍泰斗(栃木)との初戦で、女子部員として大会史上初めてボールパーソンを務めた。甲子園では安全上の理由から女性がグラウンドに立つことは禁止されてきた。しかし2022年から女子部員がノックの補助や、ボールパーソンを務めることが可能になり、2023年からはノッカー役も解禁された。

 この日は初戦で記録員を務めたもう1人の3年生マネジャー渡辺歩果さんがボールパーソンを務める予定だったが、3日前にコロナウイルスに感染。そのため、急きょ家永さんが試合前ノックで補助を務めた後、ユニホーム姿のままで記録員としてスコアをつけた。

 試合は4回まで互いに無得点だったが、5回に一挙3失点を許すとその後も追加点を与え6失点。佐賀北打線も最後まで諦めず、計11安打を放ったが1点のみに終わり、最後の夏が幕を閉じた。

 精一杯声援を送った。初戦のボールパーソン中は声をかけたり一緒に喜んだりすることも禁止される“第三者”的な立場。初勝利の喜びも小さくガッツポーズだけにとどめた。2回戦では記録員としてベンチ入り。「みんなが隣にいて心が楽というか安心でした」。初戦の分も感情豊かに喜び、悔しがった。

マネジャーは1人だけも…特例で入部

 中学時代はテニス部。野球は未経験だったが迷いはなかった。幼い頃から親に「生まれた年に佐賀北が優勝してね……」と聞かされて育ったからか、いつしか同校の野球部に入ることは心に決まっていた。

 無事入学したものの、ちょうど1人だけしかマネジャーを取らないまさかの年。希望者も2人いたが、当然諦められるはずもなく、面接で熱意を伝え、特例で入部させてもらった。

 さらにこれまでは、グラウンドで手伝うことがなかったマネジャーだったが、熱心な姿勢に部員たちから練習を手伝ってほしいと提案。それからは練習でも公式戦でもノック時のボール渡しをずっと担当してきた。

 濃厚な2年半。ついに終わりが来たかと思うと自然と涙が出た。「みんなの涙を見たら泣いてしまって」。敗戦後は選手と一緒に甲子園の土を集めた。「みんながここに、夢の舞台に、私を連れてきてくれたから少しでも思い出を拾おうと」。来られなかったマネジャーの分もかき集めた。

 将来の夢は小学校の先生。「誰かのためになることを学んで、サポートは裏方だけど一番大変ことでもある。だからこそ子どもたちに学ぶ楽しさを教えたいし、支えていきたいんです」。彼女の目にもう涙はない。人生はまだ始まったばかりだ。

(木村竜也 / Tatsuya Kimura)

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