“左手指の無い強打者”攻守で大活躍 「特別じゃない」チーム全体に与える“効果”

甲子園3試合全てでヒット記録し打率.364の猛打、守ってもレーザービーム
第107回全国高校野球選手権で、生まれつき左手の人差し指、中指、薬指、小指が欠損している県岐阜商の横山温大(はると)外野手は17日、明豊(大分)との3回戦に「7番・右翼」で出場。初回に右前適時打を放ってチームに3点目をもたらし、3-1での勝利に貢献した。今大会3試合で全てヒットを記録し、通算打率.364(11打数4安打2打点)の猛打を振るっている。
もはや見慣れた光景となったが、この日も試合終了後、横山の周りには報道陣が何重もの人垣をつくった。
初回、5番の宮川鉄平外野手(3年)の2点二塁打で先制し、なおも2死二、三塁で横山が左打席に入った。初球の内角低めのストレートを迷わず振り抜くと、打球はゴロで一、二塁間を破り、三塁走者を迎え入れる。「積極的に、追い込まれる前に自分のスイングをしたいと思い、初球のストレートをイメージして狙っていました」とうなずいた。
守備でも魅せた。8回無死一塁で、正面のライナーを右手にはめたグラブで捕球すると、間髪入れずに左胸に抱え、素早く右手でボールをつかんで一塁へ返球。飛び出していた一塁走者は間一髪戻り、併殺はならなかったが、観客の想像を超えた“レーザービーム”でスタンドをどよめかせた。
予備知識がなければ、とてもハンデを抱えている選手のプレーには見えない。名張雅人・野球部副部長は「われわれ指導者も、他の選手たちも、横山を特別だと感じたことはありません」と言い切る。そして「今大会に入ってから、横山に注目が集中しているお陰で、他の選手が浮つかずに済んでいる。一方、横山自身は注目されても浮つくような人間ではない」とチーム全体に与える“効果”を証言する。
ここにきて横山のSNSには知り合いも、全く知らない人もひっくるめて「応援しています」「勇気をもらいました」といった趣旨のダイレクトメールが約100通届いているという。横山は「いろいろな人たちに夢とか希望を示していきたいと思ってきたので、うれしいです」とうなずく。
2023年WBC準決勝メキシコ戦で放った起死回生3ランを彷彿
今夏の岐阜大会前にレギュラー背番号「9」を獲得した横山は、県大会6試合でチームトップの打率.526(19打数10安打)をマーク。甲子園でも好調な打撃を継続し、長足の進歩を示している。
アルプス席で声援を送っていた母・尚美さんは「同じ左打者で、自分と体格も近い吉田正尚(レッドソックス)さんの打撃を参考にしているようです」と語る。
確かに、吉田が2023年のWBC準決勝・メキシコ戦で放った起死回生の同点3ランは、内角低めのチェンジアップを最後は右手1本で振り抜き、右翼席へ運んだものだった。
横山の打撃は、右手でバットをしっかり握り、左手の親指を引っ掛て支え、インパクトでは左の手のひらの親指付け根部分で押し込むスタイル。「なるべく最後まで、左手を離さないようにしています」というが、最後は右手1本になることが多く、吉田正を彷彿とさせるところがある。
身長168センチ、体重70キロの横山は「吉田正尚選手も小柄ですが、飛ばす力もミート力もあって、小さい頃から憧れてきましたし、打ち方も真似させてもらっています。片手1本で持っていくこともあるので、そこも参考にさせてもらっています」と話す。卒業後も大学で野球を続ける意向で、その先のプロ入りの夢も諦めたわけではない。「なるべくレベルの高い所で、もっともっとステップアップして野球をやっていきたいです」と目を輝かせる。
希望に満ちた将来を先に見据える中、19日の準々決勝で、今春の選抜大会を制した横浜(神奈川)と対戦することが決まった。「春の王者と戦えるのでワクワクしています」と負けん気の強そうな顔を綻ばせる。目標は、戦前に4回の全国制覇(春3回、夏1回)を誇る古豪の県岐阜商にとって、1936年以来89年ぶりとなる夏制覇だ。
(Full-Count編集部)