「生きていることに感謝するべき」 戦後80年…沖縄尚学が優勝したもう1つの“価値”

節目の勝利に比嘉監督が語った祈り「当たり前に平和に」
第107回全国高校野球選手権大会の決勝が23日に甲子園球場で行われ、沖縄尚学が3-1で日大三(西東京)を破り、悲願の初優勝を飾った。今年で戦後80年という節目を迎え、当時激戦地だった沖縄に深紅の大優勝旗をもたらした。試合後に比嘉公也監督は「大会自体、平和だからできていることだと思う」と思いを語った。
左腕・末吉良丞投手と右腕・新垣有絃投手の2年生コンビを擁し、甲子園で躍動した沖縄尚学。勝ちあがる度に実力もつけ、アルプススタンドの指笛の音も大きくなっていった。決勝進出が決まると、那覇国際空港-関西国際空港間の臨時便が追加されるなど、異例の注目度となり、沖縄県民の期待も高まっていった。
決勝では強打の日大三打線をわずか1失点に封じ込み、打線も初回に先制、6回に中押し、8回にダメ押しと1点ずつ積み重ねた。最後の1死一、三塁のピンチを併殺で切り抜けた瞬間、3塁側アルプスからは地鳴りのような大歓声が起こり、選手たちの目には嬉し涙が光った。
夏の甲子園では初の優勝。沖縄県代表にとって今年優勝する事には大きな意味があった。戦後80年。この節目の年に勝つことについて比嘉監督は「激戦地だった沖縄で、80年にあたるところで決勝戦に進出できることは価値があると思います」と語っていた。
さらに試合後には「そういう巡り合わせの年に出場させて頂いた。こういう大会自体、平和だからできていることだと思う。ですので、高校野球だけじゃなく、全ての高校生の生活が当たり前に平和にできる事を祈るばかりです」と平和と感謝の言葉を綴った。
選手の中にも戦争への思い「生きていることに感謝するべき」
選手の中にも同じ思いはある。「6番・三塁」で先発出場した安谷屋春空(あだにや・はるく)内野手(3年)は、当時は幼いながら戦争を目の当たりにしてきた祖父から、戦時中の話を何度も聞いてきたという。「今ある事が当たり前じゃないんだよと教えてもらってきました。授業でも小学校からずっと勉強してきたので、そういう節目の年に自分たちが躍進して、優勝できたことは嬉しいです」と思いを語った。
身近に戦争の記憶があったからこそ感謝は尽きない。「ただ生きているだけじゃなくて、周りの方々に支えられている。生きていることに感謝するべきなので、その中で自分たちは野球も出来ていることには、感謝してもしきれないです」。試合後のインタビュールームで何度も感謝を口にしていた。
自分たちのために戦っていた夏は、いつしか沖縄のための意味を持つようになった。深紅の大優勝旗を持って、最後の感謝を伝えに帰る。
(木村竜也 / Tatsuya Kimura)