MLB右腕を「特別扱いした」 育成4位も別格だった“素質”…恩師が語る衝撃「ハンパじゃない」

加藤伸一氏は2011年に鷹の投手コーチに就任
ダイエー、広島などで活躍した加藤伸一氏(KMGホールディングス硬式野球部監督)は、近鉄に在籍していた2004年限りで現役を引退、野球評論家などを経て、2011年から2014年までソフトバンクの投手コーチを務めた。最初の3年間は2軍、4年目は1軍で手腕を発揮。「2軍で指導した選手が1軍の戦力になっていくのがうれしかったですね」。現在、メッツでプレーする千賀滉大投手を育てたことでも知られている。
近鉄がオリックスに吸収合併されることが決まった2004年に加藤氏は21年間のプロ選手生活にピリオドを打った。目標の通算100勝まであと8勝の92勝、39歳でユニホームを脱いだ。プロ8年目、ダイエー時代の1991年に結婚。13年目の1996年から2004年までは家族を福岡に残し、単身で広島、オリックス、近鉄と渡り歩いたが、その生活も終了。引退後は福岡で野球評論家として再出発した。
それから6年が経過し、ソフトバンクの球団フロントから「来年(2011年)から2軍の投手コーチをお願いできませんか」と電話があったという。条件を詰めた上で承諾。「話をいただいて、うれしかったですよ。ダイエーじゃないけど、ホークスなんでね。引退して福岡で解説をやって、ずっと見てきましたしね。久しぶりのユニホームということもね。自分もいろいろと経験したし、いい選手を育てたいと思いました」。
2軍コーチということにも魅力を感じたそうだ。「これは今も思いますけど、やっぱり2軍の方がコーチ冥利に尽きるというか……。1軍は選手をコンディションやメンタル面などベストの状態でマウンドに送り出すのが仕事ですけど、2軍は戦力をつくるわけですからね。やりがいがありますよ」。2011年シーズンからの3年間、2軍投手コーチとして多くの選手に関わった。全員に思い入れがある中、特に印象深い選手として「まぁ、千賀かなぁ」と右腕の名前をあげた。
千賀は2010年育成ドラフト4位で愛知県立蒲郡高からソフトバンクに入団。「真っ直ぐが違っていました。キャッチボールをさせてもね。ただ、いかんせん、基礎的なこと、フィールディングも、牽制も下手というか、高校時代に教えてもらっていないわけですよ。だから、そこに時間を費やさなければいけないというのはありましたね。でも、そういうのもやりがいがありましたよ。彼も性格が素直でどんどん吸収するしね」。
蒲郡高時代の千賀は実績のない投手だったが、ある意味、それもよかったという。「中途半端にアマチュアで名を残した選手は、自分は間違っていない、みたいなところから入ってくる。否定から入ってくるから、やっぱり時間がかかる。一度、駄目にならないと言うことを聞いてくれないというかね。その点、千賀はそんなことがなかった。人の言うことを素直に聞いて行動を起こせる選手だったのでね」。

千賀は2年目に2軍でタイトル獲得「真っ直ぐはハンパじゃない」
実際、千賀はどんどん成長していった。「フォークは僕自身が投げていなかったから教えていないけど、クイックとか、投手に必要な要素は全部指導しました」。その上で「特別扱いもしました」と話す。「腕の振りと柔らかさ、そして、あの真っ直ぐはハンパじゃないですからね。一つ、一つクリアしていかないといけない。まず2軍でタイトルを取らせて自信をつけさせてとか……」。
千賀は2012年に2軍で21登板、7勝3敗の成績を残した。防御率は1.33でウエスタン・リーグ最優秀防御率のタイトルも獲得。まさに育成プラン通りに一段ずつ階段を上がっていき、1軍に羽ばたいていった。そしてソフトバンクのエースとなり、日本球界を代表する投手に成長。今や、メジャーで活躍する右腕になったのだから、加藤氏にとっても感慨深いものもあるはずだ。
2014年、加藤氏は1軍投手コーチに就任したが「2軍の時にコーチとして関わった選手が1軍の戦力になってくれるのはうれしかったですよね」と振り返る。秋山幸二監督の下、郭泰源投手コーチとの2人体制で1軍投手陣を支え、リーグ優勝&日本一を経験。「今のホークス投手陣のように層は厚くなかったけど、いろいろ、みんなで知恵を出し合いながら優勝できました」と、思い出になっている。
2015年からソフトバンクは工藤公康監督率いる新体制となり、加藤氏は編成・育成部育成担当に異動。「2軍、3軍の監督、首脳陣、選手のチェック。偏った采配をしていないかとか、コミュニケーションとか。あと契約更改やプロ1年生の研修もやりました」。それを2年間務め、また部署替えの話があったところで退団したが、すべてが貴重な日々だった。教え子・千賀についても「メジャーに行ってどうなっているか。今のことは分かりませんよ」と言いつつ、さらなる活躍を楽しみにしている。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)