大谷翔平が本塁打王を逃した理由 「執着があるなら…」専門家が見た“頂点への覚悟”

シュワーバーに1本差及ばずタイトル逃すも、キャリアハイ達成
【MLB】ドジャース 6ー1 マリナーズ(日本時間29日・シアトル)
ドジャース・大谷翔平投手は28日(日本時間29日)、敵地で行われたレギュラーシーズン最終戦のマリナーズ戦に「1番・指名打者」で出場し、55号ソロを含む5打数3安打1打点。ナ・リーグ最多の56本塁打を放ったフィリーズのカイル・シュワーバー外野手には、わずか1本差で及ばなかったが、昨季の54本を上回るキャリアハイで締めくくった。今季最後の1発には、大谷の打撃レべルの高さが凝縮されていた。
大谷は7回2死走者なしの第4打席で、マリナーズの中継ぎ左腕ゲープ・スパイアー投手と今季初対戦。初球は内角高めの153キロのシンカーに差し込まれ、空振り。2球目もほぼ同じコースの154キロのシンカーを見送り、カウント0-2と追い込まれた。ここまではスパイアーの速球に全くタイミングが合っていないように見えた。
ところが、3球目に豹変する。153キロを計測したフォーシームが真ん中高めに来たところをとらえ、打球はバックスクリーン左の中堅席へ飛び込んだ。
現役時代にNPB通算2038安打を放ち、MLBにも詳しい野球評論家・新井宏昌氏は「日本のプロ野球でもレギュラークラスの打者であれば、たとえば初球、2球目のフォークボールを全くタイミングが合わずに両方空振りしたとしても、3球目に同じ球種がストライクゾーンに来れば、高い確率でバットの芯付近でとらえることができますよ」と解説。
そういう意味では「マリナーズのバッテリーとしては、速球を2球続けて追い込んだのですから、3球目には変化球をボールゾーンに投げ、振ってくれれば幸い、振ってくれなければ改めて4球目に速球で勝負する──という配球をするべきだったかなと思います」と指摘する。
「スパイアーの速球に目が慣れたところで甘めのコースに来たのは、大谷にとって“しめしめ”といったところだったでしょう」と新井氏。とはいえ、「それにしても最高の打撃でした。きっちりホームランにしたところは、大谷のレベルの高さを物語っています」と付け加える。たとえ全くタイミングが合っていないように見えたとしても、大谷に対して似た球を3球続けるのは危険過ぎたというわけだ。
前日欠場でポストシーズンへ万全「チームのためになると判断したのでしょう」
初回の第1打席では、先発の右腕プライス・ミラー投手のスプリットを右翼線へ運び二塁打。3回の第2打席でも、ミラーのスプリットを右前打にした。新井氏は「いずれも外へ逃げながら落ちる球だった分、バットのやや先気味に当たり本塁打になりませんでしたが、打撃としては非常にいい形でポストシーズンに臨めると思います」と太鼓判を押す。
いよいよドジャースは30日(日本時間10月1日)に行われるレッズとのワイルドカードシリーズ第1戦を皮切りに、ポストシーズンに突入する。それを前に、大谷は27日(日本時間28日)のマリナーズ戦を欠場し休養を取った。
これを新井氏は「大谷に本塁打王を獲りたいという執着があるなら、首脳陣が欠場を勧めたとしても、振り切って出場していたと思います。ここで休養を取り、より万全に近い状態でポストシーズンに臨む方がチームのためになると判断したからこそ、本塁打王の可能性を低くしてでも欠場に同意したのでしょう」と推察。「ポストシーズンでの大谷の活躍が、なおさら楽しみになりました」と評する。2年連続ワールドシリーズ制覇、大谷が目指しているのはその1点なのだろう。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)