吉田正尚が叶えた“夢の世界” 苦悩の1年の先に見えた光明…痛感した「まだまだ」

吉田正尚、自身初のポストシーズンは7打数4安打の打率.571
【MLB】ヤンキース 4ー0 Rソックス(日本時間3日・ニューヨーク)
憧れは思えば思うほど、いつしか現実になっていく。レッドソックスの吉田正尚外野手は2日(日本時間3日)、敵地で行われたヤンキースとのワイルドカードシリーズ第3戦に「4番・指名打者」で出場。4打数2安打と奮闘したが、チームは1勝2敗となり地区シリーズ進出とはならなかった。
福井県で生まれ育った幼少期。地上波で放送されていたプロ野球よりも、衛星放送で流れていたメジャーリーガーたちに夢中となった。「どんな球を投げるんだろう、どんな打球を飛ばすんだろう。どんなプレーが見れるんだろう……って感じ。あの雰囲気、ベースボールと野球の何が違うのか。自分の目で見て確認してみたいんです。それが小さい頃からの夢だったから、なおさらですね」。メジャー挑戦3年目の今季、自身初のポストシーズンに臨み、7打数4安打の打率.571、2打点と存在感を示した。
今季は右肩手術の影響もあり、リハビリ生活からスタート。マイナーで野望を描く若手選手らとも接する機会があった。「振り返ると長いですけど……。去年のオフから取り組みながらね。強く打球を打つところから始まった。実戦に入ってから課題も出てきて、最後の1か月は段階とイメージが一致してきた」と語るように、9月は21試合に出場して、打率.316、2本塁打、13打点の成績。勢いをつけて、自身初のポストシーズンに臨んでいた。
第1戦では代打で登場。1点を追う7回1死二、三塁から初球を弾き返して値千金の逆転2点適時打を放った。「最初の出番が代打でね。1本目がああいう形で出てよかったです」。第2戦でも代打で起用され、執念のヘッドスライディングで内野安打をもぎ取った。「無我夢中と言いますか。気がついたら……。短期決戦では普段でないようなプレーも出るんだなと感じています」。目指した大舞台で、アドレナリン全開だった。
明るく締めくくった今季だが、苦しい日々が続いた。「打撃の幅を広げたいというのが自分のテーマ。長打だけじゃなくて、走者がいない時は出塁だったり。長打もそうだし、出塁率もそうだし。日本の時にできていたことが、こっちでは正直できていないのが現状です。ステージを自分で上げていかないと、相手の対応も変わらない。打席数をもっとね。しっかり信頼というところを自分で勝ち取っていかないといけないと思います。勝負の世界ですのでね」と、冷静に目線をあげる。
今から20年前。小学6年の吉田少年は、堂々と卒業文集に刻んだ。「僕の将来の夢はメジャーリーガーです」。メジャー3年目が終わった。この3年間、思うような成績が残せず、いつになくネガティブ思考にもなった。「このまま終わるのか……?」。自分自身に何度も問いかけた。たどり着いた夢のステージで、今も懸命に歯を食いしばる。
「不思議な感じがしますよ。少年の頃、テレビで見ていた舞台に自分が立っている。憧れていたメジャーの球場でホームランを打って走っている。少年の頃から、ずっとそういう夢を見て頑張ってきましたけど、いざ実現すると言葉にできないなと感じました。大きな夢を持って生きてきて、気がついたら、その場所に自分がいる。あの頃に考えていた夢は、大きかった。だけど、そこは僕にとって最終目標ではなかったんです。遠いところに置いていたはずの夢に辿り着くと、そこでハッと思うんです。『まだまだやな』って。日々懸命に生きていかんとなって」
頂への道のりは、誰も教えてくれない。地面を噛み締めて、1歩ずつ進む。最短ルートなんて甘い言葉は、ここにはない。
(真柴健 / Ken Mashiba)