「当時の球界ではなかった」 短期決戦中に監督から異例の“休暇”…無双MVPへの原動力に

ロッテ、楽天で活躍した今江敏晃氏【写真:町田利衣】
ロッテ、楽天で活躍した今江敏晃氏【写真:町田利衣】

今江敏晃氏は2005年にレギュラー定着で日本一貢献、ベストナイン&GG賞も

 ロッテと楽天で通算1704試合に出場した今江敏晃氏は、高卒4年目だった2005年に初めて規定打席に到達して打率.310と大ブレークを果たした。ベストナインとゴールデングラブ賞に輝き、シーズン勝率2位から31年ぶりの日本一に大きく貢献。日本シリーズでは8打席連続安打の離れ業でMVPに輝いた。私生活ではプレーオフ中に長男が誕生と、まさにバラ色の1年となった。

「人生の中でターニングポイントになった年だなと思います」と今江氏は2005年を述懐する。ボビー・バレンタイン監督が就任した2004年、シーズン前半に2軍で打撃3冠に近い数字をキープし、球宴明けから1軍に定着していた。勝負のシーズンを前に、期待の高さはひしひしと感じていた。

「2005年は開幕から試合に出してもらっていましたけど大した結果を出せていなかったんです。けど周りがよくて何とかついていく形で出続けさせてもらっていて、そうしたら交流戦明けから打ち出して、そこからバーっといけた。全てを加味した上で運が良かったなと思いますね」

 プレーオフでは第1ステージで西武を破り、福岡に乗り込んだ。当時は2試合を行い、1日の空き日を経てさらに3試合を行う日程だった。ちょうどオフだった10月14日、東京にいる愛妻が出産のときを迎えた。「練習を休んで付き添いに帰らせてもらったんです。当時の球界ではそういうことはあまりなかったですけど、ボビーが『いいよ』と言ってくれた。子どもが生まれて、その後もいい形で結果を出せました」と感謝した。

日本シリーズ8打席連続安打…打率.667でMVP「無の境地、無の極限」

 言葉通り、ソフトバンクも破ったロッテは阪神との日本シリーズに挑んだ。そこでの今江氏は向かうところ敵なし。シリーズ打率.667と打ちまくったのだ。「無の境地、無の極限とでも言うんでしょうか。あのときの打撃を思い出そうと思っても、感覚を思い出せない。日本シリーズという初めての舞台で、いい緊張感を持ちながら、いい集中力でいけたからこそ“究極の無”になれたのかもしれないですね」。今江氏が牽引したチームは4連勝、阪神を圧倒して頂点に立った。

「もしかしたら、これがいい方向に働いたのかなっていうのがひとつあって……僕、あまり体調がよくなかったんです」と今江氏は驚きの事実を明かす。病院に行くほどではないが、体のだるさ、熱っぽさが続いていたのだという。「いつもは緊張すると力みになるけど、そういうのがなかったので」。体調不良が驚異の記録を生み出していたのかも知れない。

 何もかもがうまくいった2005年。その功績が認められ、2006年第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本代表に選出された。さらなるスター街道を歩んでいくはずだった今江氏は一転、「天国から地獄でした」とどん底に突き落とされることになる。

(町田利衣 / Rie Machida)

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