ドラ1候補→指名漏れで痛感「過信していた」 いまだよぎる悔しさ、“世代No.1捕手”の今

JWLでプレーするトヨタ自動車・箱山遥人【写真:木村竜也】
JWLでプレーするトヨタ自動車・箱山遥人【写真:木村竜也】

トヨタ自動車・箱山が忘れぬ指名漏れの瞬間

 まだ強い沖縄の日差しの下、ジャパンウィンターリーグ(JWL)で泥臭く白球を追いかける男の姿があった。“世代No.1捕手”と称され、昨年のドラフト会議でまさかの指名漏れを経験したトヨタ自動車・箱山遥人捕手だ。失意の底から1年。社会人野球の名門で鍛錬を重ね、さらなる成長を求めて南国の地で汗を流している。

 健大高崎高で主将を務め、センバツ優勝に導き、U-18日本代表にも選出された逸材にとって、昨年のドラフトは野球人生を見つめ直す瞬間となった。強肩強打の捕手として上位候補、1位指名の予想も散見されるほど注目度は高かった。そんな期待とは裏腹に、最後まで名前が呼ばれることはなかった。

「頭は真っ白でした……。悔しいとかもなかったですね。もう、それすら感じなかったです。感情が分からなくなりました。正直、過信していたのだと思います」

 高い評価は意識せずとも目に入ってくる。周囲からも期待の声をたくさんかけられた。18歳の野球少年にとって期待しないほうが無理な状況。昔からプロ以外は考えていなかった。中学生の頃は「高卒で行けなかったら辞めてもいい」とさえ思っていたほどの覚悟が、行き場を失った瞬間だった。ドラフトから2日後、トヨタからの電話が鳴るまで、その心は空っぽのままだったという。

取材に応じたトヨタ自動車・箱山遥人【写真:木村竜也】
取材に応じたトヨタ自動車・箱山遥人【写真:木村竜也】

同期へのライバル心を胸に…明け暮れた「年間5万球」

 指名漏れの後、監督の助言もあり多くの先輩から言葉をもらった。「自分の最終ゴールはどこなのか」。胸に刺さったこの言葉で前を向けた。最終的なゴールが「日本の正捕手」なら、ルートが変わっただけだと切り替えられた。

 社会人野球の1年目は、圧倒的な練習量をこなした。コーチと二人三脚で立てた目標は「年間5万球」、捕る、止める、投げる。捕手としての基礎技術を徹底的に叩き込む日々が始まった。

 全体練習が始まる前、他の選手がストレッチや道具の準備をしている時間には、すでに箱山は一人で外野を走り、別メニューを開始している。1日平均200球、多い日には1000球。「もっと練習させてほしい」とコーチに懇願することもあった。「野球のことだけを考えて、一番練習したし、一番伸びたと実感できる1年でした」。かつてチームをまとめることに奔走した主将は今、誰よりも早くグラウンドに入り、自身の技術向上だけを見据えて泥にまみれている。

 それでも指名漏れの感覚が蘇ることがある。休日にふとスマホを見ると、プロに進んだ同級生の活躍が流れてくる。「同級生がプロで活躍する姿を見ると、俺もできるんじゃないか、と悔しさが込み上げます」。

「プロだから成功、漏れたから失敗とは限らない」。遠回りでも、険しい道でも構わない。「あの日」の記憶と、同期へのライバル心が、今の箱山を突き動かす。

(木村竜也 / Tatsuya Kimura)

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