肘に走った“電流”「神経がいかれた感覚」 WBCは絶望&MLB解雇…チェコ右腕が襲われた悪夢

JWLに参加するボリスは2度のトミー・ジョン手術をしている
沖縄で開催中の「ジャパンウィンターリーグ(JWL)」に、数奇な運命を辿った剛腕がいる。チェコ出身のボリス・ヴェラチカ投手だ。2022年にダイヤモンドバックスと契約し、順風満帆に見えた野球人生。しかし、その直後に待っていたのは、あまりに残酷な悪夢だった。
野球を始めたのは6歳。母とチェコ代表ヘッドコーチが高校の同級生だった縁でその才能を見出され、2022年にはMLBのダイヤモンドバックスとの契約を勝ち取った。悲劇が起きたのはその直後、2023年日本中が熱狂したWBC。その舞台に立つため、チェコ代表として日本入りする直前の練習中だった。
「肘が痺れるというか、バーンと電気が流れるような……。痛みというより、力が全く入らない。神経がいかれているような感覚でした」
夢のWBC出場は消滅し、そこから2年間に及ぶリハビリ生活が始まった。1度目のトミー・ジョン手術では完治せず、米国の権威ある執刀医の下で2度目の手術を決断。2023年、2024年はキャンプ地でただひたすらリハビリに明け暮れた。「2年間も投げていないのだから、クビを切られるのは分かっていました」。昨年でダイヤモンドバックスからはクビを宣告された。
復活の157キロ「やりきれていないことがある」
それでも、ボリスは終わらなかった。2度の手術を経て、肘は完全に治った。術後の計測では、18歳当時の最速154キロを上回る157キロをマーク。怪我をする前よりも強くなって帰ってきた。
「クビになったのは実力が足りなかったからというより、ただ痛くて投げられなかっただけ。自分の中にやりきれていないことがある」。今回JWLに参加した理由はもちろん契約を求めて。そしてWBCに向けたアピールだ。
初めて訪れた日本の印象は「野球に対して熱心に取り組む文化はとてもいい。ただ、マウンドが柔らかいのは苦手かな」と笑う。悪夢のような2年間を乗り越え、3年ぶりのマウンドではいきなり157キロを計測しどよめかせた。沖縄の地で復活を遂げた22歳。今度こそ、夢の続きを掴み取る。
(木村竜也 / Tatsuya Kimura)