初の首位打者も苦言「ちょっと雑」 逆に凄い「わずか7」…元コーチが語る“伸びしろ”

ソフトバンクで5年間指導した飯田哲也氏「前半は優勝は無理と思いました」
今季のプロ野球は、ソフトバンクが5年ぶりに日本一を奪回した。だが、序盤戦は借金が最多で7にまで膨らみ最下位に喘いだ。2015年から5年間ホークスでコーチを務めた野球評論家の飯田哲也氏は「前半は優勝は無理と思いました。でも勝っちゃう。若手が育ってきましたね」。あらためて大逆転Vを成し遂げた鷹の“変化”に着目してもらった。
ホークスと言えば、毎年のように大型補強するなど豪華な布陣の印象が強い。しかし今季は、主力が相次いで故障に見舞われた。栗原陵矢、今宮健太の両内野手、近藤健介、柳田悠岐の両外野手ら、これまでチームを支えてきた看板選手ばかり。「怪我をしてない人がいないぐらいに感じましたね。これだけ出たら、普通は勝てないですよ。山川(穂高内野手)も1年間やったけど、成績は物足りなかった」。
それでいてもソフトバンクは跳ね返してみせた。飯田氏は、特に野手4人の働きが光ったという。「周東(佑京)、牧原(大成)、柳町(達)、野村(勇)です。本当によく頑張った。4人は年齢的にも30歳前後で、これから一線級でやっていく。みんな生え抜きで、ちゃんと育ってきました。ホークスも世代交代の時期が来ている」。牧原大は二塁手、周東、柳町は外野手のベストナインにも選出された。
周東、牧原大、柳町、野村に「新たなホークスが見えた」 世代交代の時期が来た
牧原大は熊本・城北高から内野手として育成ドラフトで入団。プロ15年目にして打率.304をマークし、育成出身初の首位打者に輝いた。飯田氏は「もともと素材は素晴らしかったんですよ」と感慨深げ。実は、思い入れの強い選手だった。
ホークスのコーチ1年目だった2015年、前年ウエスタン・リーグ首位打者の潜在能力を目の当たりにし、1軍に抜擢すべき人材と確信した。ただし、当時の内野には本多雄一、今宮の実力者が健在。そこで工藤公康監督に「外野にしたらどうでしょうか」と進言し、「ちょっと、やってみっか」と了承を得た。牧原大はキャンプから外野の守備にも取り組み、初の開幕1軍入りなど奮闘したものの、好機を掴み切るまでには至らなかった。
素質が花開いた牧原大だが、飯田氏は手綱を緩めない。「バッティングはちょっと雑。三振が多く、四球が取れない。彼のスタイルではあるけれど」。443打席で四球を選んだのは僅かに7。「つまり打つだけで首位打者を獲っちゃってる。相当に凄い事ではあるんですけどね。普通は打率を上げるには四球をどれだけ稼いでおくかが大切なのに」。
牧原大だけでなく、周東、柳町、野村も同様の課題があると指摘する。「ボールの見極めですね。追い込まれるまでは各々のスタイルで構わないが、追い込まれてからの対応。皆、最悪内野ゴロを打ったとしてもセーフになるような俊足。それなのに三振しちゃう。もったいないですよ」。柳町はリーグ打率2位ながら442打数で109三振を喫した。
「逆に言えば、まだまだ彼らには、のびしろがあると言う事。足があるし、ヒットは打つし、守備も上手いし。塁に出たら作戦の幅が広がるから、相手チームはやっかいでメチャクチャ困りますよ。だから本人たちの意識は勿論ですけど、意識を変えるように指導できるか打撃コーチにも期待したいですね」
ソフトバンクは2011年からの10年間は日本一が7度の“常勝”を誇った。そして今年、中心選手の顔ぶれを移しつつ12球団の頂点を奪還した。「新たなホークスが見えた年でした」。飯田氏は“常勝”ムードが復活する可能性が十分にあり得ると感じている。
(西村大輔 / Taisuke Nishimura)