投げた携帯が中谷の目に「あっ…」 “首踏み事件”で悪役に…今語る懺悔と真相

阪神現役時代の中込伸氏【写真提供:産経新聞社】
阪神現役時代の中込伸氏【写真提供:産経新聞社】

「おーい、中谷! 鳴っているぞ」が生んだ“悪夢”

 まさか、あんな……。元阪神右腕・中込伸氏(西宮市甲子園七番町「炭火焼肉 伸」店主)は、1999年シーズン中の5月に、同僚の中谷仁捕手(1997年阪神ドラフト1位、現・智弁和歌山監督)に携帯電話を投げて当てて、負傷させた人物としても知られている。さらには山梨・甲府工の後輩で1994年阪神ドラフト1位右腕・山村宏樹投手(現・山梨ファイアーウィンズGM)に関しても……。なぜ、そんなことが起きたのか。今、どう思っているのか――。

 中込氏の野球人生において悔やみ切れない一件が中谷氏に左目の視力を低下させる怪我を負わせたことだ。それは1999年5月の出来事。プロ11年目の中込氏はダイエットに失敗して、なかなか調子が上がらなかった年で、5月中旬にはシーズン2度目の2軍再調整となっていた。「2軍監督は岡田(彰布)さんの時で(プロ2年目の)中谷はまだ(2軍の)遠征に連れていってもらえていなかった。そんなときにバーベキューに誘ったんです」。

 当時の2軍本拠地・鳴尾浜。中込氏ら再調整組、故障リハビリ組も遠征に同行しておらず、練習後に「葛西(稔)さん、弓長(起浩)さんやトレーナーの方らと『今日はバーベキューしようや』ってなった。鳴尾浜の近くにバーベキュー場があったんでね、海のところに。それで、じゃあ行こうかって時に、中谷も練習を終えてとぼとぼ歩いていたから『お前も行くか』と言って、連れていったんです」という。そこで悲劇が起きた。

「僕はバーベキュー(コンロ側)の方にいて、中谷は砂浜で(参加していた先輩投手の)子どもたちと遊んでいた。その距離は僕がいたところから20~30メートルくらいかな。その時、置いてあった中谷のケータイが鳴ったんです。それで『おーい、中谷! 鳴っているぞ』と言って投げた。砂浜だし、下に落ちても壊れないだろうと思ってホワンと投げた。そしたらちょうど中谷が振り向いた時に当たってしまった」

 瞬間「あっ」と思ったという。「顔に当たったのはわかったけど、目とは……。左目の上のところが切れていたのかな。血も出ていた。一緒にいたトレーナーが見て『これはすぐ病院だ』と言って連れていった。そしたら、目の方が、って……」。期待の星は視力低下を余儀なくされた。中込氏が責任を感じたのは言うまでもない。「和歌山の中谷のお母さんに会いに行って、事情を説明して『すみませんでした』と……。『気にしないでください』とは言われましたけど……」。

 アクシデントとはいえ、中込氏が当てたことに変わりはない。「僕がやったことですからね。それは事実だし、消えることはない。あれがなかったら(中谷は)すごい選手になったかもしれないだろうし……。中谷が十何年、プロ野球で頑張ってくれたのが、僕にとっては、ちょっとだけ救われた感じ。それがなかったら、もう……」と神妙な面持ちで話した。

 この話は表面化した後に尾ひれがつき“中込氏が至近距離からケータイを投げつけた”など、事実とは全く違う伝わり方もした。「面白おかしく書かれましたよね。ジャイアン的にね」と、漫画「ドラえもん」のいじめっ子キャラ・ジャイアンを持ち出しながら、話したが、それに関しては不本意だったに違いない。しかし、それ以上に中谷氏への申し訳ない気持ちでいっぱいだった。当時は怪我と闘う後輩の今後のことを心配するばかりだった。

元阪神・中込伸氏【写真:山口真司】
元阪神・中込伸氏【写真:山口真司】

戦力外となった山村氏と食事 新聞を踊った「先輩に首を踏まれて」

 そして、同じ1999年に山村氏の一件も起きた。シーズン中にめまいや吐き気、自律神経失調症に苦しんでいた右腕はその年の10月に阪神から戦力外通告を受けたが、そんな体調不良の要因として中込氏から首筋を踏まれたことがあるかのように、まことしやかにささやかれたことだ。これについては「あれはよくわからなかったんですよね。何だったんだろう。だって山村がクビになった日も……」と言って、こう続けた。

「あの日、三宮で食事をしていたら山村から電話がかかってきた。『先輩、クビになりました』と報告があった。『何や、そんなん、おかしいよ。じゃあ、ここにいるから飯食いに来いよ』と言って、呼んで一緒に食事したんです。『まだまだお前はできるよ。全然大丈夫だから、頑張れよ』と励ました。そしたら、次の日の新聞に“先輩に首を踏まれて”みたいなのが出て……」。先輩選手の名前は特定されていなかったが、まるで中込氏のように噂された。

「“えっ、俺”って思った。それで山村に聞いたら『違いますよ。先輩のせいじゃないですよ』って言うし……。何でああなったのか、よくわからなかった。あの年、選手同士で、足とかで踏んで首とかをやるマッサージが流行ってはいましたけどね」。中谷氏を負傷させたこととも重なり、結果的に中込氏の悪役イメージばかりが増していった。「“ドラ1を2人も”ってする方が(話としては)面白いですもんね」と苦笑した。「あの時、大々的に僕が“山村は違うと言っています”と言っても“脅かしてそう言わせたんだろう”ってなるのが嫌だった」とも話した。

 山村氏は阪神戦力外で終わらず、近鉄、楽天で活躍した。「それは山村の頑張りですよね。あいつが頑張っていろいろ克服したんですから。(2012年に)楽天(で現役)を辞める時も電話がかかってきました。『これでもうやめます。焼き肉店とか、飲食業とかしたいんですけどねぇ』っていうから『それは大変だからやめといた方がいい』って話もしました。今は山梨でGMをしているし、よかったと思います」。

 中谷氏も阪神だけでなく、楽天、巨人でもプレーし、現在は母校・智弁和歌山の監督として力を発揮している。「中谷は智弁の監督になる前にウチの店にも来ました。報道の人からは、中谷も取材とかで“中込さんのあれは悪く書かないで”とか言ってくれていると聞いた。智弁でも頑張っているし、本当にそれは僕には救いですよ」としみじみと話した。

“ケータイ事件”も“首踏み事件”もいまだに尾ひれがついた方が一人歩きしている部分もある。「どこでどういう話が伝わっていったのかはわからないけど、こうやって話をしても信じてくれない人もいる。まぁ、それもしかたないですよね。いろいろネタにされて僕も精神的に強くなっています」と中込氏は話しながら、また繰り返した。「中谷を怪我させたのは事実ですから。それは消えませんから」。そう言って表情を引き締めた。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY