ドラ1入団も痛感した壁「3年でクビ」…“娯楽”封印で向き合った現実「1円も使っていない」

10月25日、明大戦の始球式に登場した武田一浩氏【写真:加治屋友輝】
10月25日、明大戦の始球式に登場した武田一浩氏【写真:加治屋友輝】

MLB中継解説者・武田一浩氏、プロ1年目を振り返る

 いきなりプロのレベルの高さに衝撃を受けた。NHKのMLB中継解説者として活躍中の野球評論家・武田一浩氏は、明大時代の1987年、ドラフト1位指名を受けて日本ハムに入団。後に最優秀救援投手、最多勝のタイトルを獲得したが、即戦力の期待を受けて臨んだプロ1年目は苦闘の連続だったという。

 大学の試験、卒論のため少し遅れて参加した沖縄県名護市での春季キャンプ。その初日、ブルペンで1軍ローテーション投手の球筋を見て驚きを覚えた。「球のラインが凄く出るし、回転も、スピードも、切れも本当にいい。僕とはレベルが違うなと感じましたし、結構衝撃でした。『これはかなり練習しないとヤバい。3年でクビになる』と思いましたね」。

 現在とは違い、球団側からオフの練習メニューの指示がなかった時代。「今みたいにインターネットも普及していないし、やり方も分からない。投げる、走るしかない時代でした」と振り返る。試験や卒論で練習時間を十分に確保できなかったことに加え、前年秋に野球部の首脳陣と衝突したことでマウンドから長く離れており「調子が良くなかった」ことも影響した。

 オープン戦終盤に2軍降格。「打たれていないんですけど、今思えば球自体が良くなかったんでしょうね」。開幕を2軍で迎え「焦ったので休日も遊びに行かなかった。このままだとヤバいと思っていましたし、1年目は給料を1円も使っていないぐらいの感覚でした」と必死に調整を続けた。

プロ初勝利「内容は全然覚えていない」…記念球もなし

 5月に1軍昇格し、6月8日の阪急戦(東京ドーム)で8回からプロ初登板。2回無失点と上々のデビューを飾った。7月3日の阪急戦(同)ではプロ初先発。6回3失点と粘りの投球を見せたが味方の援護がなく敗れた。

 迎えた8月3日のロッテ戦(川崎)で待望の瞬間が訪れる。1点ビハインドの6回2死から中継ぎ登板。1回2/3を無失点に抑えると打線が逆転。7-4で勝利し、うれしいプロ初勝利を手にしたのである。

「同期で入ったドラフト2位の小川(浩一)が打って逆転してくれました。でも、自分の投球内容は全然覚えていないですね」

 1年目は先発2試合を含む20試合に登板して1勝2敗、防御率3.38。プロ初勝利のウイニングボールは持っていない。「元々、そういうものに執着はないんです」。そう笑いながら回顧した。これもまた、タイトルや記録、記念球に強いこだわりがない武田氏らしい話である。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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