“第2の大谷翔平”は「もう出ない」 変わりゆくプロ野球…止まらぬ流出、危惧する未来

ドジャース・大谷翔平【写真:ロイター】
ドジャース・大谷翔平【写真:ロイター】

MLB中継解説者・武田一浩氏、球界の今後に言及

 指名打者(DH)制の導入には賛成も、二刀流の育成は難しくなる――。NHKのMLB中継解説者として活躍中の野球評論家・武田一浩氏は現役時代、日本ハム、ダイエー(現ソフトバンク)、中日、巨人の4球団で計15年間プレー。最優秀救援投手と最多勝のタイトルを獲得するなど、NPB通算89勝31セーブを記録した。12球団勝利もマークするなど両リーグの野球を知り尽くした右腕である。

「野球を見ていて面白いのはパ・リーグです。やっぱりDHがあるのはいい」と武田氏は言う。DHに関してはセ・リーグも2027年シーズンから導入することが決まっており「球界にとっていいことです」と力を込めた。

「プロは投手が打席に入ったら1アウトという雰囲気がある。それがなくなるだけでも野球は本当にかなり変わります。打線に投手1人がいなくなると、9番打者が4番打者のようになる。世界中で投手が打席に立っているのは日本の高校野球と(東京)六大学野球、セ・リーグだけでした。投手が打順に入らなくなることで、野球のレベルは大きく変わります」

 パ・リーグ時代はDHの強打者と対戦し、セ・リーグ時代は自ら打席にも立っていただけに説得力は十分である。投手は投手の役割があり、打者には打者の役割があるのだ。

 より多くの選手に出場機会を与えるため、高校野球と東京六大学野球も2026年からDHを導入する。そのこと自体は肯定的に捉えつつ「これからは(ドジャースの)大谷(翔平)以外、投手は誰も打たなくなる。つまり大谷の記録は誰にも破られなくなります」。メジャーリーグで次々と歴史を塗り替えている二刀流のスーパースターと同様の存在は、今後は出現しないと予測した。

現在はNHK解説者を務める武田一浩氏【写真:株式会社パムズ】
現在はNHK解説者を務める武田一浩氏【写真:株式会社パムズ】

プロ野球界の将来「どうなっていくのか想像がつかない」

 今年は解説の仕事を含めて、メジャーリーグの試合を「日本人選手も多いですし、かなりたくさん見ました」という。満票で4度目のMVPを獲得した大谷については「もう“100年に1人”という次元じゃない。こんな選手、今までいないんですから」と脱帽の様子。「もうベーブ・ルースうんぬんの話ではありません。みんな、歴史の証人です。こんな選手は、もう出てこない」と強調した。

 空前の盛り上がりを見せるメジャーリーグに対し、スター選手の流出が続く日本のプロ野球界の将来については「どうなっていくのか想像がつかない。ちょっと心配はあります」と不安も示す。「新しいスターはどんどん出てくるけど、大谷みたいな選手はなかなか出てこないですから」と付け加えた。

 そんな不安の一方で、明るい材料もあるという。「パ・リーグは今、お客さんがたくさん入るようになっていて、満員になることが多い。フランチャイズがその土地に根付いていますし、球団の営業努力が凄い。僕らが入った頃に比べて大きく変わっています」。2年後にDHを導入するセ・リーグには「(人気球団の)阪神と巨人がいますけど、そこにあぐらをかいているとパ・リーグに抜かされる」とさらなる奮起を期待する。

 テレビ解説では、結果を予測し早めに発信することを心がけている。「あまり結果論で言わないように気をつけています。できるだけ先に『こうなると思います』と話してます」。常に願うのは野球界の発展。的確で分かりやすく、時には鋭いコメントで一役買っていく。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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