王監督が激怒…準備不足が招いた“終焉” プロ失格の烙印、即日言い渡された降格

ジャパンウィンターリーグでGMを務める大野倫氏【写真:木村竜也】
ジャパンウィンターリーグでGMを務める大野倫氏【写真:木村竜也】

最後になった突然の代打「想定できていなかった」

 プロ野球の世界において、1つのプレー、1つの打席がその後の人生を大きく変えてしまうことがある――沖縄水産のエースとして甲子園準優勝、酷使による右肘の故障から野手転向、そして憧れの巨人入団。さらに突然のトレード通告でダイエー(現ソフトバンク)でプレーした大野倫氏にとって、あまりにも残酷で、かつ今の人生の「礎」となる忘れられない1打席がある。

 大野氏は巨人時代に長嶋茂雄監督の下でプレーし、その後トレードで王貞治監督が率いるダイエーへ移籍。「ON」の両監督に仕えるチャンスを得て、移籍初年度から開幕スタメンに名を連ねた。適時打まで放つなど順調なスタートを切ったかに見えた。しかし、5月半ばのある試合が運命を暗転させる。

 試合中、スタメンで出場した選手が負傷し、急きょ代打として出番が回ってきた。心の準備が整わないまま打席へ向かう。「ナイターの球場って、フェアゾーンにはライトが当たっていて眩しいけれど、ベンチは微妙に暗いんです」。暗いベンチから、カクテル光線に照らされた眩いばかりの打席へ。急激な明暗差に、網膜が、そして感覚が対応しきれなかった。

「全くピッチャーのボールに太刀打ちできませんでした」。普段ならイニング間にベンチの外に出て“照明慣れ”をするが、この日は突然の事で間に合わなかった。「急だったにしても、色んな事を想定できていなかった自分が悔やまれますね……」。結果はバットを一度も振ることなく見逃し三振。これが、大野にとってプロ生活最後の1軍打席となった。

試合後に監督室で雷「プロとしての資格はない」

 試合後、いきなり王監督から監督室へ呼び出された。そこで待っていたのは、指揮官からの痛烈な叱責だった。

「めちゃくちゃ怒られました。『今すぐ荷物をまとめて2軍へ行け』と」。その場で即刻、2軍降格を言い渡されたのだ。だが、本当に堪えたのは降格の事実そのものよりも、王監督が最後に放った一言だった。

「いいか大野。今日のお前の打席は、野球人生における見逃し三振だ」

 プロである以上、バットを振らなければ何も生まれない。チャンスをみすみす自らの手で見逃した姿勢に対し、王監督から“プロとしての資格はない”と断罪されたのだ。その言葉通り、大野が再び1軍に呼ばれることはなく、移籍2年目のオフに自由契約となった。あまりにも苦いラストシーン。しかし、大野氏はこの言葉を「お守り」として胸に刻んでいる。

「僕の今の取り組みの礎になっています。準備の大切さ、チャンスをつかむ姿勢。あの見逃し三振があったからこそ、今の自分がある」。世界のホームラン王から突きつけられた「野球人生の見逃し三振」という言葉。それは引退後の人生において、どんなボールにもフルスイングで挑むための教訓となっている。

 引退後は会社員を経て、現在は巨人のOBスカウト、NPO法人「野球未来Ryukyu」の理事長や、中学硬式野球「うるま東ボーイズ」の監督、そしてジャパンウィンターリーグのGMとして活動している。「プロで成功も失敗も経験した自分だからこそ伝えられることがある。野球の普及というよりも知ってもらう。子どもたちに真剣勝負の楽しさを教えたい。様々な方面で関わらせてもらっていることは贅沢ですよ」。

 野球人口の減少が叫ばれる中、子どもたちの選択肢のテーブルに「野球」を残すこと。そして、野球を知らない子どもたちにその楽しさを伝えること。かつて甲子園を沸かせたヒーローは今、次世代の育成と普及に情熱を注いでいる。

(木村竜也 / Tatsuya Kimura)

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