沖縄球児は「センスだけで勝負している」 安定捨てた気鋭コーチが励む“野球上達の研究”

野球スクール「ベースボールパラダイス」代表・大城亮さんが説く次世代の育成論
沖縄の野球シーンに新たな風が吹いている。中部商業から国士舘大学、沖縄電力とアマチュア野球のトップレベルで活躍した大城亮さんは、2024年に独立を決意。実家の土地に仲間と1年かけて手作りで建てた施設で、野球スクール「ベースボールパラダイス」をスタートさせた。現役引退時に最も成績が良かったという大城さんは、自らの経験とバイオメカニクスの観点で、子どもたちから社会人まで幅広い層への指導にあたっている。
沖縄の子どもたちは高い身体能力を誇るが、大城さんは「センスや能力だけで勝負している」と現状を分析する。中学や高校まではその資質で通用するかもしれないが、大学や社会人といった上のカテゴリーでは“限界”がくるという。さらにレベルアップするには、感覚に頼らず「正しい動作がある」ことを知り、理論を学ぶことが不可欠だ。早い段階から知識を蓄えておくことで、後の成長曲線は大きく変わると大城さんは確信している。
大城さんは現役引退を決断した2015年に打率、本塁打、打点で自己最高の成績を残したという。大学時代から数値や理論を学び、社会人になっても続けた。「野球を研究することが楽しくてやめられなくなった。感覚だけでは限界がある。少しずつ落とし込むことで成績も残るようになってきた」と振り返る。志半ばでプレーヤーを断念したが、“野球がうまくなる”ための勉強をやめることはなかった。
沖縄の野球レベルを上げたい。その思いは年を重ねるごとに強くなり、2024年に会社を辞め、野球スクールを立ちあげるための準備を進めた。実家の土地を有効活用するため、草木の伐採や整地を自ら行い、「何度も手直しして、業者に頼むよりお金はかかったかもしれません」と笑う。時間と資金はかかったが、10メートル×24メートルの施設を完成させた。

プロ野球がキャンプを行う沖縄特有の“環境”は子どもたちを成長させる
指導者は大城さんを含め4人。元社会人野球選手が集まり、子どもから大人まで幅広く指導している。自身の経験を踏まえ、感覚だけに頼らず「数値」や「技術」を取り入れ、個々に落とし込む指導を大切にする。小中学生の頃から知識や理論に触れておけば、すぐに体現できなくても「カテゴリーが上がるにつれ、必ず意味が分かるようになってくる」と強調する。
沖縄ならではの“環境”にも子どもたちが成長するヒントがあるという。「キャンプ期間は試合と違い、練習の取り組み方や姿勢を見ることができます。なぜ、このトレーニングをやっているのか。それを考えるだけでも勉強になる」。多くのプロ球団が春季キャンプを沖縄で行う。トップレベルの選手を間近で見られる恵まれた環境を活かし、自身の動きを常にアップデートさせる姿勢が、技術向上につながっていく。
技術面だけでなく、精神面の変化も重要だ。沖縄特有の「みんな仲良く」という県民性は平和主義な一面もあるが、県外の厳しい競争社会ではギャップに埋もれてしまうこともあるという。「打つ投げるは負けてない」と断言する大城さんは、県外の大学や高校へ進学する子が増えている現状を歓迎している。知識、野球観、メンタル、性格の部分まで含めて指導することで、全国舞台でも物怖じせずに実力を発揮できる選手を育てようとしている。
「うまい選手をうまいで終わらせる環境」を打破し、常にアップデートしていくことが上達への近道。大城さんの施設では子どもたちが日々、自身の動作を研究している。自分の感覚を言葉にし、理論に裏付けられた練習を繰り返せば、身体能力以上の力を引き出すことが可能になる。「沖縄の野球レベルを上げたい」。志半ばで現役引退した大城さんの情熱は今、沖縄の次世代へと受け継がれようとしている。
(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)
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