普通の軟式中学生に“隠れた原石” プロも驚き…硬式に劣らぬデータ「いい意味で乖離」

計測を行う志田宗大氏(左から2人目)【写真:高橋幸司】
計測を行う志田宗大氏(左から2人目)【写真:高橋幸司】

元ヤクルト・志田宗大さん、久古健太郎さんが公立中学の軟式野球部でデータ計測

 地域移行・地域展開に揺れる公立中学校の軟式野球部だが、そこは将来輝く“原石の宝庫”かもしれない。プロ球団にデータ分析システムなどを提供するライブリッツ株式会社の志田宗大さん、久古健太郎さん(ともに元ヤクルト)が2月14日、東京・多摩市内の中学校で、同社がアマチュア野球チームに提供する「FastBall for Personalデータ計測サービス」にてバッティング・ピッチングの計測を行った。数値から見えてきた、“普通の中学生”にある隠れた才能、そして中学生が定期的にデータを測るべき意義とは――。

 計測に参加したのは、多摩市立東愛宕中と落合中の3年〜1年生部員13人。「時代の流れで子どもたちが“情報”に詳しくなる中、指導者が無知ではいけない。選手たちにも日々の練習のモチベーションになれば」と、東愛宕中顧問の田中秀周(ひでちか)先生が、久古さんに直接連絡を入れて実現した。

 両校は合同チームを組んで多摩地区の大会や都大会予選に出場している。中には週末のみ硬式チームで練習する子もいるが、多くは、いわゆる一般的な中学軟式選手で、中学から野球を始めた子も多いという。

「優劣をつけるのではなく、自分の現在地を知り、今後の目標や方向性を定めることが目的。普段通りにやってください」。「侍ジャパン」スコアラーや中日のアナライザーなどを務めてきた志田さんの言葉で計測はスタート。まずは「ラプソード」と「ブラスト」を使い、ティー打撃で打球速度やスイング速度、オンプレーンスコア(バット軌道の良し悪しを20〜80点で表したもの)などを計測。次に「ラプソード」を使い、マウンドからの投球で球速や回転数、回転効率などを測った。

 打撃、投球ともに1人10球ずつ。1球ごとにデータがタブレット端末に表示される。「OK、いいよ」「ナイスピッチ」。志田さん、久古さんともにポジティブな声かけで選手たちの力みを取り除いていく。

「形はすごくいいけれどスイング速度・打球速度が足りない。フィジカル系が大事」「投手をするなら横の幅で勝負していくタイプ。スライダーを覚えるといい」。志田さん、久古さんは数値を基に“一流の視点”も交えてアドバイスを送り、時に顧問の了承をとった上で技術指導を行う場面も。3時間の計測は、あっという間に過ぎていった。

「ラプソード」を利用して投球計測を行う様子【写真:高橋幸司】
「ラプソード」を利用して投球計測を行う様子【写真:高橋幸司】

データ計測は病院の健診と同じ「課題や伸ばすポイントが見える」

 今回の計測結果は以下の通り。ちなみに中学生全般では、打球速度の平均が110〜120キロ、スイング速度が100〜110キロ。球速が100〜110キロ程度で、速い投手だと120〜130キロだという。

・打球速度(km/h) 最高124.1/平均93.6
・スイング速度(km/h) 最高103.6/平均90.6
・オンプレーンスコア 最高72.0/平均48.5
・球速(km/h) 最高112.8/平均95.6
・回転数 最高1782.9/平均1308.3

 中にはプロの両者も唸るようなデータを叩き出す選手も。普段は硬式での計測が多く、軟式は初めてだったそうだが、志田さんも久古さんも「“隠れた原石”が何人かいた」と驚いた様子だった。「『楽しんで野球をやれればいい』と思っていても、データをとってみると、ものすごく良い数字が出たり。本人のモチベーションと実力が、いい意味で乖離しているケースはあります。中学軟式には特にそういう選手が多いかもしれない」と久古さんは分析する。

 硬式にはない、軟式ならではの数値も見られた。投球の軌道にどれだけ長くバットを入れられたかを示す「オンプレーンスコア」に優れた選手が多かったことだ。硬式球は“点”でとらえてもある程度飛んでいくが、柔らかい軟式球はそうはいかない。「スイング速度は遅くても、軌道に長く入れられる選手がいて、伝えたら喜んでいました」と志田さん。今後、さらに軟式でのデータが積み上がれば、ユニークな傾向が掴めるかもしれない。

データを説明しながらアドバイスをする久古健太郎氏【写真:高橋幸司】
データを説明しながらアドバイスをする久古健太郎氏【写真:高橋幸司】

 もちろん、目的は決して原石探しではない。計測の様子を見ていても、それぞれの選手に個性があり、伸びしろがあることが印象的だった。久古さんはデータ計測を病院の健診にたとえ、「悪いところが見つかれば薬を処方するのと同じで、数値化することで、みんなの課題や伸ばすポイントが見えてきます」と選手たちに意義を伝えていた。

 春から高校野球に挑戦する落合中3年の三ツ木理絃(みつぎ・りいと)選手は、「感覚だけで練習をしてうまくいかない時に、データを測ることで『こうすればいいんだ』というのがわかりやすくなると感じました」と学びを得た様子。同中顧問の畑中建佑先生も「日頃、感覚で教えていることを数値化、言語化していただいて腑に落ちることが多かった。生徒たちの“安心”した表情も印象的でした」と振り返った。

 公立中学で計測機器を導入するのは難しいかもしれないが、半年に1回など、身体測定のように定期的に測る機会を設けるだけで、選手にも、指導者にもメリットは大きそうだ。自身も中学軟式からプロの世界に上り詰めた志田さんは、「自分の可能性に気づけてない子はたくさんいると思う。『甲子園なんて夢のまた夢です』みたいな選手を、後押しできる役割ができれば」。約13万人いる中学軟式選手を少しでも応援できるよう、必要とあれば全国どこにでも計測に向かう意気込みだ。

(高橋幸司 / Koji Takahashi)

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