学童野球で「投手・捕手兼任禁止」導入のワケ 現場は嘆きも…盗塁阻止に潜む“大問題”

「同一試合での投手・捕手兼任禁止」…捕手の二塁送球時の肘への負荷を考慮
学童野球において「同一試合での投手と捕手の兼任禁止」のルールが新たに導入される。2月3日、全日本軟式野球連盟(JSBB)が発表。1年後の2027年シーズンからの導入が決定している。昨年10月には、2019年に導入された投手の「1人1日70球」に加えて、今シーズンから適用される「1週間210球」の新ルール。同12月には「外表面にウレタン・スポンジ等の弾性体を取りつけた」いわゆる「飛ぶバット」が2029年以降、禁止されることも発表されている。適用開始時期こそ異なるが、ここのところ“新ルールラッシュ”である。
投手・捕手の兼任禁止についていえば、昨年12月のJSBB理事会で承認されての導入決定ではあるものの、数年前から、導入が検討されていることは、かなり広く知られていた。
旧知の学童野球指導者からは、様々な意見を耳にしてもいた。ルール化自体ナンセンスという意見もあれば、理解はできるが、チームの選手数を考えると現実的に厳しい、といった嘆きも……。
ただ、このルール導入の根拠は当時、よく耳にした「キャッチャーも1球ごと、ピッチャーに投げ返すのだから、同じ球数を投げている」というようなものではなく、問題になったのは盗塁阻止などのための、二塁送球時の肘への負担の大きさ。肘に装着して、投球時の負荷を数値化する「パルススロー」を用いた計測では、投手のピッチングの2倍近い負荷がかかっていることが明らかになっている。
「まして、成長途上にある小学生選手ですからね。盗塁阻止のための送球などは全力に近い。投げるフォームにもバラつきがあるでしょう。投げる数自体は多くなくとも、肘への負担は相当なものになります」と話すのは、慶友整形外科病院の整形外科部長で慶友スポーツ医学センター長の古島弘三医師。JSBBの医科学副委員長でもある古島医師は、ルールの策定段階から関わっており、上記の数値も彼の実施した試験によるものだ。
「投手・捕手の兼任禁止については、70球の投球制限がルール化される前から、提言はしていたんです」と古島医師は振り返る。とはいえ、提言のすべてを一気にルール化して適用することは難しい。現場の指導者たちからの反対も、容易に想像できる。

子どもたちを守り、野球の楽しさを感じられるルールへ
ルール制定に至る流れについては、JSBBの清野祐さんが説明する。「それぞれのルール案について検証と選手、指導者、保護者からのヒアリングを行い、賛成意見、反対意見を集約し、その上で障害予防や競技運営の観点から、そして野球本来の楽しさを阻害していないか、といった点も考慮に入れて判断します」
上記のパルススローによる計測データは、検討段階に入ってから、参考値として提示されたものだ。ルールの有効性を確認すべく、実際のゲームで適用してのエキシビション・マッチなども行われていたと記憶している。そうした段階を踏み、今回のルール導入に至ったというわけなのだ。
70球制限の時もそうではあったが、新ルール制定時には、反発する意見も出る。が、いったん決まって適用となれば、それを前提にチームづくりが行われ、試合が繰り広げられることになる。徐々に、日常風景になってゆくのだ。
すべては子どもたちを障害の危険から守るため――。今回の新ルールも、指導者、チームの側では、そう考えて前向きに捉え、より多くの選手にキャッチャーを経験させるための良い機会、と切り替えたい。「学童野球でキャッチャーを経験することは、長い目で見れば、選手たちにとってもプラスになるでしょうからね」と、自身も野球経験の長い古島医師。JSBB・清野さんは「新ルール適用を1年先にしているのは、新たなキャッチャーを育てるのには時間がかかるであろう、というところからなんです」と話す。
この話にはまだ、続きがある。「実は、私はこのルールと一緒に、『盗塁制限』や『パスボールでの進塁禁止』も採用すべきと話していたんです」と古島医師。「せっかく新しいキャッチャーが増えても、盗塁されるばかりでは、野球が楽しくなくなってしまいます」。もっともであり、学童野球では、誰もが目にしたことがある試合風景なのではないだろうか。

全国大会の重みを損なわないためには…「ローカルルール」適用も
とはいえ、これまで、そして今回の変更もそうだが、よく耳にする反対意見は「ルールがこれだけ変わってしまうと、全国大会の重みが薄れる」というもの。これももっともな意見ではある。古島医師はこの点も理解しており、「全国大会や県大会が難しかったら、たとえば市町村レベルの大会では適用する、という形でもいいのではないか、とも言っているんですよ」と、何が何でも一律で、とは考えていない。
たとえば“小学生の甲子園”「高円宮賜杯 全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」でも、全国大会では得点差によるコールドゲーム規定はないが、各都道府県予選となると、「5回7点差」などのコールドゲーム成立要件が設定されているところがほとんど。これと同じように、「ローカルルール」として適用する方法も考えられるのだ。
盗塁を例に考えれば、市町村大会から都道府県大会、そして全国大会と、試合のレベルが上がるにつれ、キャッチャーの技量も上がるため、自然と盗塁数は減少する傾向にある。とすれば、市町村大会はローカルルールで……という考え方も、合理的といえるのではないか。
今後の展開も考えられる学童野球のルール改正。ただ、今回もそうだが、どうしてもJSBBの発表というと、上意下達のイメージが強い。今回のルールも、検証と議論に数年という時間をかけていながら、発表には唐突感が否めないのだ。たとえばSNSなどを通じて、もっと現場レベルで活発な意見交換できる時間や機会があれば、唐突感は和らぐのかもしれない。選手ファーストの前提さえ守られれば、建設的な議論ができるはずだと思うが……。
〇鈴木秀樹(すずき・ひでき)1968年生まれ、愛知県出身。南山大卒業後、中日新聞社事業局で主にスポーツイベントの開催に携わる。退社後、フリーライターとして「東京中日スポーツ」「東京新聞」で学童野球を中心に扱う「みんなのスポーツ」コーナーの記者兼デスクとして取材・執筆や編集業務全般を20年以上担当。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて取材、執筆中。
https://www.fieldforce-ec.jp/pages/know
(鈴木秀樹 / Hideki Suzuki)
球速を上げたい、打球を遠くに飛ばしたい……。「Full-Count」のきょうだいサイト「First-Pitch」では、野球少年・少女や指導者・保護者の皆さんが知りたい指導方法や、育成現場の“今”を伝えています。野球の楽しさを覚える入り口として、疑問解決への糸口として、役立つ情報を日々発信します。
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