采配は常に「負けを想定」、怒り方にも工夫 子どもを惹きつける“元国体V腕”の指導術

“小学生の甲子園”出場2回…山梨・ラウンダースを率いる日原宏幸監督
2026年度を迎えて、全国から注目されている学童野球チームが山梨県にある。社会人軟式で国体優勝を果たした右腕が、自ら学童チームを立ち上げて指揮官に。創立14年で、“小学生の甲子園”こと「全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」にも2回出場している、ラウンダースだ。
昨年秋の新人戦は、最高位となる関東大会で準優勝。1都7県の王者による同大会でも抜きん出ていたのは、堅実な野球とその完成度、そして勝負強さだった。最上級生(当時5年生)は13人で、特別に大きな選手はいないが粒ぞろいで落ち着いていた。
足技とバントを絡めた攻撃で1点を奪い、多彩な投手陣と粘り強い守備で失点は最小限に。そうかと思えば、打つしかない場面ではタイムリーや長打も飛び出した。守りのミスや与えた四死球もゼロではなかったが、ベンチの大人たちに逐一の干渉や高圧的な言動もないことが、感心や驚きに輪をかけていた。
「子どもは宇宙人なので、何をするかわからない。でもある日、それまでできなかったことが突然できるようになったり、びっくりするようなこともある」
こう語る日原宏幸監督は、NEC山梨のエースとして1992年国体優勝の経歴を持ち、幼児から低学年生を対象とする巡回型の体操・野球教室を生業にして16年になる。当然、ゴールデンエイジ(10歳以下)の特性や発育発達学にも精通。同教室は楽しませるのが最優先で、子どもを自ずとその気にさせたり、集団のルールを授ける術にも長けている。例えば、ボールを全員で拾い集めるのに「10」を大声でカウントダウン。すると、チビッ子たちは競うようにボールを拾いだす、という具合だ。
「もちろん、危ないことをしたり、みんなに迷惑をかけているようなときには厳しく叱ります。すると、周囲の子もダメなことを理解しますし、基本的にはみんな笑顔でやれている。私自身が毎日、その笑顔に元気をもらっている感じです」

厳しく注意する場合はチーム全体へ「ひとつの失敗を全員で共有」
子どもを振り向かせるコツは「よく接する、よく話をする、よく動きを見るに尽きる」。これらのアプローチは、学童チームでの指導にも通じている。ただし、厳しく注意する場合には特定の個人ではなく、あえて全体へ矛先を向けるという。
「監督が怒るのと、コーチが怒るのとでは、子どもが受けるダメージがぜんぜん違うので。試合中のミスでも、たまたまその子に起きただけであって、違う子にまた起きる可能性がある。ひとつの失敗を全員で共有して学んでいく、というのは常に意識していることです」
打ち方や投げ方については、日原監督は基礎を一定まで授けるが、それ以上は個々に寄り添った指導がベース。「やっぱり、10人いれば十人十色」が持論だ。冬場の屋内練習(水・木曜日の2時間)では、打力アップを主眼とする複数のドリルをローテーションで行うが、指揮官は常に個々の習熟度や感覚を確認して回っている。結果、練習ドリルの一部をアレンジしたり、新たに生まれたりするメニューもよくあるという。
選手たちは日々、大人ともコミュニケーションがとれているせいだろう。誰を取材しても「はい」と「いいえ」で終わらず、1対1の対話でも考えや気持ちを言葉にできるのも特長だ。

「失敗や負けパターンを想定しながら」の采配で全国出場2回
繰り返し練習してきたことが、試合になるとできなくなる。練習では当たり前にやれていたのに、大事な場面でミスしてしまう。こうしたときに激昂する指導者は、いまの時代でも多い。日原監督も「腹が立たないことはない」と正直に打ち明けるものの、その感情を露わにすることはまずない。
それができる理由のひとつは、「試合では常に失敗や負けパターンを想定している」ことにあるようだ。かつてプレーしていたころの社会人軟式のトップレベルでは、0-0や1-1で延長15回や20回という試合もザラだった。そこで刷り込まれたのが、盗塁や小技を駆使する野球であり、最悪を想定内としながらの試合運びだった。
「采配は常に、失敗やミスを想定しながらやっています。負けるとすれば、こういうパターンというのもどんどん考えながら。そして実際に、それが起きなければOKというスタンスでいます」
だから、成否で一喜一憂しない。そういう指揮官がベンチにいるから、フィールドの選手たちは思いきりプレーして、パフォーマンスを発揮しやすいのだろう。

ラウンダースには、保護者たちの組織や当番制がない。指揮官が運営面も一手にこなしており、その日々は多忙だが、「グラウンドに来ると、子どもたちの笑顔が私を元気にさせてくれる」。
なお、日原監督が営む体操・野球教室と、自ら立ち上げたラウンダースとは、まったくの別ものでリンクしていない。教室で野球にはまり、ラウンダースの門をたたくケースは多いが、教室に通うだけの子も珍しくはないという。それでも“日原先生”と“日原監督”は、分け隔てることなく、目の前の子どもたちから活力源を得ている。
〇大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」で千葉ロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中。JSPO公認コーチ3。
https://www.fieldforce-ec.jp/pages/know
(大久保克哉 / Katsuya Okubo)
球速を上げたい、打球を遠くに飛ばしたい……。「Full-Count」のきょうだいサイト「First-Pitch」では、野球少年・少女や指導者・保護者の皆さんが知りたい指導方法や、育成現場の“今”を伝えています。野球の楽しさを覚える入り口として、疑問解決への糸口として、役立つ情報を日々発信します。
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