漁師になるはずが挫折→中学野球指導者に 絶妙采配で全国準V…“軟式愛”が変えた運命

全日本少年春季軟式野球大会で東海大静岡翔洋中を準優勝に導いた寺崎裕紀監督
中学軟式野球の全国大会「文部科学大臣杯 第17回全日本少年春季軟式野球大会ENEOSトーナメント」は3月25日に岡山県の倉敷マスカットスタジアムで決勝戦が行われ、東海大静岡翔洋中は桐生大附属中(群馬)に最終7回2死までリードするも逆転負けで優勝を逃した。寺崎裕紀監督は柔軟な選手起用と足を絡めた攻撃で決勝に導いたが、巧みな采配の背景には異色の経歴と並々ならぬ“軟式愛”があった。
日本海の港町、新潟県糸魚川市で生まれ育った寺崎監督。生活のすぐそばにあったのが“魚”だった。「従兄弟が漁師で、幼少期から船に乗って漁を手伝っていました。延縄(はえなわ)漁という手法で、糸の針に餌をつけて投げ、魚が食べたら巻き上げる漁法です」と、目を輝かせる。
地元の県立糸魚川高で野球を続けながらも、魚への思いは消えなかった。地元で漁師になろうと、漁業を学ぶべく、静岡県にキャンパスを構える東海大学海洋学部の水産学科へ進学。準硬式野球部で野球を継続したが、“大きな壁”が立ちはだかった。
「『俺は魚のスペシャリストだ』と思って行ったんですけど、他にもっとすごいマニアがいて挫折しました」。そんな時に出合ったのが、東海大静岡翔洋中だった。「翔洋中と準硬式野球部が、グラウンドを入れ替わりで使っていたんです。ずっと好きだった軟式野球を勉強したいと思って、当時の監督だった弓桁義雄氏(東海大静岡キャンパス女子硬式野球部兼東海大静岡翔洋高女子硬式野球部監督)に頼み込んで、大学生のうちから少しずつ指導するようになりました」。
その後、弓桁氏が女子野球部に異動するタイミングで教員になり、コーチを経て監督に就任。毎年力のあるチームを作り上げ、2023年に全国中学軟式大会を制した。そして、最高成績がベスト8だった全日本春季軟式大会で今回、準優勝。中学野球界で指折りの強豪となった。

準Vに導いた名采配…背景には並々ならぬ“軟式愛”
東海大静岡翔洋中の強さには秘密がある。寺崎監督の並々ならぬ“軟式愛”だ。「高校は硬式でしたが、ゴムでできた軟式ボールの野球が大好きでした。大学で準硬式を選んだのも、それが理由です」。愛する理由は、多様な戦術があること。ミートが難しくロースコアになることが多いからこそ、足を絡めた攻撃や得点圏での“叩き”など、幅広い采配の手札がある。
今大会でも、3回戦の東山クラブ戦では7盗塁を記録。3-2での勝利に繋げた。決勝では、最終7回2死から、4球だけ球数を残していたエース・池ヶ谷誠をマウンドに送り込み火消しを目論んだ。結果は痛打され逆転を許したが、「最後に使おうと思っていた」と、先を見越した起用構想があったと明かした。
寺崎監督は、軟式野球を指導する側になった今の思いを語る。「少年野球で細かい戦術を教えられていないこともあります。でも、一つひとつ教えていくと、どんどん分かってできるようになっていく。選手と一緒に戦えている気がして、それが中学軟式野球の面白いなと思うところです」。
試合後は、「ギリギリまで追い詰めることができた。力以上のものを出してくれた」と選手を称えた。涙を経て、さらに強くなったナインを引き連れ、全国の舞台で再び手腕を発揮する日は近いだろう。
(磯田健太郎/Kentaro Isoda)
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