理不尽な叱責受け「野球が大嫌いに」 トラウマ抱えた学童監督が貫く“友達感覚”

香川の学童野球チーム・五剣山ライジング【写真:喜岡桜】
香川の学童野球チーム・五剣山ライジング【写真:喜岡桜】

香川県の学童軟式野球チーム「五剣山ライジング」を率いる村川兼治監督

 小学生になると、子どもは友人と出かけたり地域のスポーツクラブに入団したり、学校での活動以外にも保護者と離れて行動する機会が増える。その時、子どもは「人生で初めて挫折する」と話すのは、香川県の学童軟式野球チーム「五剣山ライジング」の村川兼治監督だ。保護者から自立しようと“第一歩”を踏み出す子どもたちを指導する上で、自身の経験を踏まえ、挫折を経験しても「つらいまま終わらせない」ように導いている。

 前身チームの統合によって2020年に創部した五剣山ライジングは、2月に香川県で行われた「第17回白井一幸杯争奪スポーツショップニッタ少年軟式野球大会」で、優勝した「川島ジュニアキングス」に2回戦で敗退した。しかし、最も印象に残ったチームだった。

 同点で迎えた1回戦の最終回、4番・松家尚希くんの打球は曇り空に向かって高く上がるも失速し、野手のグラブに収まった。自軍ベンチを振り返り、「ごめーん!」と叫ぶ松家くんは肩を落としながらも笑顔。試合が終わると、まるで空き地で野球を楽しんだあとのように子どもたちは明るかった。全国の教育現場で無気力な子どもが増加していると言われているが、小学生らしい表情や振る舞いをする選手たちに、記者は胸を打たれた。

 そんなチームをまとめる村川監督には苦い過去がある。「僕は小学生の時、野球を大嫌いになってチームをやめました」と明かし、「勝とうが負けようが、良いプレーをしても常に怒られるスポーツだと思ったんですよ。なんで勝ったのに怒られないかんの。良いプレーは(指導に当たっていない)他の人からも褒められない。体罰を悪く思わない時代でもあり、それらが僕にとっては一生もののトラウマになったんですよね」と眉尻を下げた。

五剣山ライジングの松家尚希【写真:喜岡桜】
五剣山ライジングの松家尚希【写真:喜岡桜】

「恥ずかしがらずに子どもたちを褒めてあげたい」

 その後は人気漫画に憧れてバスケットボールに熱中したといい、長男が野球をしたいと言いだした時は想いを尊重する一方、「僕は(グラウンドに)行く気はないと断っていたんです」と振り返る。ところが、指導していた知り合いに挨拶するためにチームを訪れたことがきっかけで“パパコーチ”になり、監督を引き受けた。

「小学生の時に感じた『(どうせ怒られるのに、野球を)何のためにやるん?』という気持ちは、今も根強く記憶に残っています。だから僕はあまり怒りたくないし、恥ずかしがらずに子どもたちを褒めてあげたい。スポーツって楽しいから好きになって、楽しむためにチームに入るんです。だから僕は『今日も試合を楽しもうね』って話をしてから臨みました」

 時には叱ることも大切だ。しかし、小学生になり、家庭から離れはじめた子どもたちにとっては、外の世界で受ける“家族以外からの叱責”が深い傷になることもある。現代の子どもたちは「家族に守られ学校でも怒られないので、スポーツクラブが初めて気持ちが挫ける場になる」と村川監督。だからこそ、「トラウマにならないように」細心の注意を払って指導するという。

 松家くんの父で、史上5人目の東大出身プロ野球選手として横浜(現DeNA)と日本ハムでプレーした卓弘さんは「村川監督はハッとさせられることがたくさんある指導者です。だから安心して息子をお願いできています」と頷く。さらに高校野球の監督という立場からも「勤務校の高松西は勝ち上がれるチームではないですが、強豪校とは違う指導の難しさがあるんです。そんな高校野球にも村川監督の考えは通ずるものだと思います」と語った。

 世代は違っても、人間が喜怒哀楽を感じる場面はほぼ同じ。指導歴10年目の村川監督は自身のトラウマを物差しに、「僕はされて嫌なことはしない」と力を込めた。小学生だった頃の自分に戻り“友達感覚”で子どもたちを指導することで、威圧的な言い回しをすることなく素直に褒めることもできる。自立への一歩を踏み出した子どもたちが挫けた時には、“同じ目線”で救いの手を差し伸べて成長を促していく。

(喜岡桜 / Sakura Kioka)

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