野球人生の土台を作る“道具の本質” 米老舗メーカーがリトルリーグを支援するワケ

ローリングスジャパンLLC・宮城敬吾氏が語る…道具と野球の本質
ドジャース・大谷翔平投手やカブス・鈴木誠也外野手を輩出し、球数制限や指導者研修など様々な取り組みで日本の少年野球を先導し続けてきたリトルリーグを、130年の歴史を持つ野球用品メーカー「ローリングス」が支えている。試合で使用する公式球の提供もその一つだ。グラブ、バット、ボール……子どもたちが最初に触れる道具の選び方が、その後のプレーを大きく左右する。
ローリングスジャパンLLC(合同会社)営業本部東日本エリアマネジャーの宮城敬吾氏は、正しい道具を知ることが選手のパフォーマンスを根本から変えるという確信を身をもって経験してきた。大手企業を辞め、アメリカ、ドイツ、メキシコを転々としながら独立リーガーとして野球を続けた男が、なぜ今、子どもたちに道具を届ける側に立っているのか。その答えは、現役時代に払った「ある代償」と、切り離せない。
1887年にアメリカで創業したローリングスは、グラブ、ボール、バットを軸に、メジャーリーガーとともに道具の本質を追い求めてきた。その象徴が守備の名手に贈られるゴールドグラブ賞との長年にわたる関わりであり、アメリカではリトルリーグとの公式パートナーシップが長く続いている。世界大会の試合球にもローリングスUSのボールが使われてきた。
日本でも今年、そのパートナーシップが本格的に動き出した。国内のリトルリーガーがアメリカと同じ仕様のボールで練習し、同じ感覚のまま世界の舞台に立てる環境を作る。それがローリングスジャパンの描く支援の核心だ。
「メーカーはただ商品を売るだけじゃない。お客様のパフォーマンスに繋がるものをきちんと届けていきたいんです。それがローリングスの使命だと思っています」――。宮城氏はそう言い切る。

道具のことをもっと知っていれば…選手生命は延びていたかもしれない
宮城氏は大学卒業後、大手企業に就職した。だが、社会人2年目、ヤクルト・池山隆寛(現監督)が引退セレモニーで胴上げされる姿を目の当たりにし、「こういう人生がいい。プレーヤーとして最後を華々しく迎えたい」という思いが抑えられなくなった。退職後、アメリカのウインターリーグに挑戦。契約消滅を機にドイツへ渡り、その後メキシコでもプレーを続けた。宮城氏は複数の国で野球の現場を体で知った。
現役時代、悔やんだ記憶がある。アメリカやメキシコで二塁を守っていた時、捕手からの送球が外側に逸れると、何度もボールを弾いた。原因を知ったのは、選手を辞めてからのことだった。
グラブには「順綴じ」と「逆綴じ」という構造の違いがあり、自分のポジションやプレースタイルに合った選択をすることで、捕球の安定感は大きく変わる。「それを知っていれば、あのシーンは防げました。選手生命が1、2年は延びていたんじゃないかと、今でも思うんです」。宮城氏は苦笑いとも悔恨ともつかない表情でそう口にした。
だからこそ、宮城氏はグラブの「本質」にこだわる。
「そもそもグラブって、何のためにあるのか。エラーをしないために、捕りやすくするためにある。素手の感覚をいかに残すか。それがグラブ作りの核心だと思っています」
ブランドが130年以上にわたって追い続けてきた哲学は、まさにその一点に集約されている。Rのロゴは、単なるブランドマークではない。歴代のメジャーリーガーとともに磨き上げてきた技術と信頼の証だ。
グラブにとどまらず、バットやユニホームパンツも展開する同社が目指すのは、子どもたちのプレー全体をパフォーマンスの面から支えること。バットに目を向ければ、有名ブランドのイーストンも展開。イーストン独占工場は宇宙船などの金属製品も手がける高度な技術を有し、バットにおいてはイーストンのみを製造している。
世界で初めて金属バットを生み出した同ブランドは素材の技術蓄積に強みを持ち、高校野球の新基準移行時には多くの合金の中から最適素材を選び、人気を博した。今年の選抜大会でも多くの使用者がいた。グリップエンドに特許構造のゴムを内蔵し、インパクト時の反力を軽減する設計も特徴のひとつだ。試打会や店頭啓発を重ねながら、その価値を地道に届けようとしている。
宮城氏は海外を転々としながら感じたことがある。ドイツでは野球ショップも存在せず、道具は使い回しが当たり前だった。それに比べ、日本の子どもたちはグラブをグラウンドに丁寧に並べ、試合後に手入れをする。「道具を大切にしている子は、プレーも丁寧です。グラブを育てることが、親子の会話にもなる。それは日本の野球文化が持つ、大切な財産だと思っています」と目を細めた。
道具を正しく知れば、プレーは変わる。ローリングスがリトルリーガーたちに伝えたいのはその一点。プロレベルの革を使用し、世界基準のボール、130年かけて磨かれた道具の本質……それを子どものうちから手にすることが、野球人生の土台になる。それを誰よりも遠回りして知った男だからこそ、伝えられるものがある。
(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)
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