中学部活動の「受け皿不足」に光明 奈良で生まれた軟式クラブ…企業主導の“最大の強み”

4月に設立された中学軟式クラブチーム「さとやくベースボールアカデミー」
中学校の部活動が減る中、野球を続けたい子どもたちの受け皿不足が課題だ。今年4月に奈良県に設立された中学生の軟式クラブチーム「さとやくベースボールアカデミー」が、新たなモデルケースとして注目を集めている。全国優勝経験のある社会人軟式チームを持つ、佐藤薬品工業株式会社が立ち上げた、企業主導の展開は、部活がなくなる地域のヒントになるかもしれない。
部活動がなくなる子どもたちに救いの手を差し伸べたのは、奈良県の佐藤薬品工業株式会社だ。スポーツ庁が推進する部活動の地域展開の促進支援の一環で今年4月に「さとやくベースボールアカデミー」を開校。体験会などを実施し、一期生は25人が集まった。
奈良県は野球熱が高く、硬式チームが増える一方、軟式クラブは少数化している。同チームの前田晋也監督は「硬式野球は敷居が高い面もあり、部活の軟式野球なら気軽に始めたいと思う子どもが一定数いる。そんな中、部活動がなくなれば辞めてしまうこともあるのではないかということを危惧しています」という。
前田監督やコーチ陣も高校、大学、社会人野球経験者だが「高校から硬式を始めて十分に通用する」と考えている。軟式球は硬式に比べボールが軽く、肩肘の故障リスクは低い。さらに、保護者の金銭面やその他の負担などが少ないなど、中学で軟式野球を選択するメリットはあると前田監督は口にする。
「身近にある野球を気軽にはじめたい。そのような子どもたちの受け皿にもなりたい。もちろん、高校野球を見据えて上達を目指す子どもたちもいる。『軟式だから』と卑下することはないと思います。むしろ、軟式のメリットは沢山あると思う。怪我の面や経済面もそうですが、しっかり体力と技術を身につけ高校で硬式に転向しても全く遅くないと考えています」

指導者全員が指導者資格を持つ意味「指導者が向上心を持たずにやるのは違う」
企業主導の最大の強みは環境面だ。公式戦も可能な専用球場を完備し、軟式社会人チームが使うバットやボールなどの道具も共有できる。保護者からすれば企業が費用をバックアップするため金銭面の負担は軽減される。さらに、指導にあたる12人全員が日本スポーツ協会公認コーチ1または3(軟式野球競技)の指導者資格を持っていることも、大きな安心材料だ。
前田監督は奈良県の軟式野球連盟の副理事長兼事務局長も務めており、指導者育成にも力を注いでいる。全国的にみれば大学、社会人、プロなどの“経歴”だけで教える指導者が大半だ。全ての指導者が資格を持つ意味を、前田監督はこう説明する。
「もちろん、高いレベルでプレーしたことを還元する、経験に基づいて指導することは素晴らしいことだと思います。ただ、子どもを教えるにはコーチングやティーチング。スポーツでのハラスメントや、スポーツ医学的な部分は必要になります。技術的や理論も日進月歩で変わっていきますし、何よりスポーツマンシップも含めて体系立てた指導をすることが重要であると考えます。選手に努力しろと言うのに、指導者が向上心を持たずにやるのは違うのではないか。やはり指導者は勉強していかないといけない」
設立から1か月が経ち、子どもたちの意識も変化してきた。前田監督は当初、長く野球ができる土台作りを重視していた。だが、子どもたちから自然と「勝ちたい」という言葉が出てきたという。「勝つことを目指すならやるべきことは沢山ある。それは技術や戦術だけでなく心技体すべてが大事になる」と、子どもたちと向き合っている。
さとやくベースボールアカデミーは、野球ができる喜びを感じ、高校、大学、社会人と長くプレーできる選手育成を目指していく。「勝ち負けや成長は熱を持って本気で取り組んだ先に生まれる」と前田監督。企業と地域が力を合わせ、子どもたちが全力で取り組める部活動の地域展開モデルを目指していく。
(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)
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