中南米野球はなぜ強い? 育成年代はノーコン、暴走も…MLBに多数輩出できる理由

昨年のウインターリーグでカンペロを指導する谷口容基氏(右)【写真:本人提供】
昨年のウインターリーグでカンペロを指導する谷口容基氏(右)【写真:本人提供】

ドミニカ共和国など中南米や豪州でプレー…谷口容基さんの指導法

 中南米と日本では、選手の育成方法にも違いがある。ドミニカ共和国など海外でのプレー経験が豊富な谷口容基さんは現在、関西を拠点にオンライン野球教室「DREAM SCHOOL」などで小中高生から大学、独立リーグの選手まで幅広く指導している。自身の経験を生かし、海外と日本のいい部分をミックスさせた指導は好評だ。

 小学3年で軟式野球を始め、中学時代は硬式野球のヤングリーグでプレーした谷口さん。広島県内の高校でも硬式野球部に所属したが、レギュラーどころかベンチ入りもできずに3年間で公式戦出場は1度もなかったという。上京して進学した大学ではレベルの高さに圧倒され、硬式野球を一度は断念。準硬式野球部に入部した。

 大学2年でレギュラーになると、硬式野球への思いが再燃。3年で退部した後、社会人のクラブチームでプレーした。卒業前に独立リーグのトライアウトに挑戦して合格。1年間プレーした後、ドミニカ共和国に渡り、アカデミーに入った。

「MLBでプロになりたいと思っていました」。MLB下部組織のトライアウトを目指す中、宿舎でルームメートになったのが、現在エンゼルス傘下でプレーするグスタボ・カンペロ外野手。後のメジャーリーガーとしのぎを削った。

 その後はプエルトリコやコロンビア、オーストラリアでもプレー。MLBの夢はかなわずに引退したが、親友となったカンペロがメジャーリーガーまで駆け上がったことを自分のことのように喜んだ。身長167.6センチと野球選手としては小柄なカンペロは、コロンビアの貧しい家庭の出身。8年間のマイナー生活を経て2024年にメジャー昇格した苦労人で、「体が小さくても努力すれば報われる。こんな選手がいることを日本のファンにもっと知ってもらいたい」と力を込める。

 昨年末からはカンペロの個人トレーナーに着任。カンペロがコロンビア代表として出場した今春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にも同行した。NPBでの経験はない異例のキャリアだが、中南米での経験は何にも代え難く、日本との違いを誰よりも知っている。

「中南米の選手たちがメジャーリーグを目指すのは、貧困層から抜け出すためです。貧しい家庭に生まれる子がほとんどなので、野球選手として大成することが唯一の方法だと言われています。そういう気持ちで男の子たちが野球を始めるケースは多い。日本みたいに野球に憧れるというより、家族を救う、一族を守るイメージで始めるんです」

今春のエンゼルスキャンプでのカンペロと谷口氏【写真:本人提供】
今春のエンゼルスキャンプでのカンペロと谷口氏【写真:本人提供】

中南米と日本の「いい部分を取って育成していくのが理想」

 ハングリー精神は日本と比べようがないほど強い。道具はメジャーリーガーとなった選手から寄付されることが多いが、全員に行き渡るまでは揃わない。1個のグラブを数人で使い回すことも多い。バットやボールも不足しており、状態はボロボロ。そこでバットの先端をくり抜き、石を詰め込んで重くし、手製のマスコットバットを作り上げるという。

「めちゃくちゃ重たいバットにして、ソフトボールを打ったり、タイヤを叩いてパワーをつけるんです。日本は試合に勝つことを目標に練習しますが、中南米は個々の力を伸ばしてプロ契約させるところにフォーカスします。守備も連係プレー、カットプレーの練習はほとんどしません」

 内野守備では、まずハンドリングを学ぶ。捕球後の送球スピードを上げる練習も繰り返す。個人の技術を徹底的に磨く一方、ランダウンプレーなどチームプレーは高校の年代までほとんど学ばない。その結果、試合を見ると「野球が全く分からない感じ。投手は球が速いけどストライクが入らない。打者は打つけど暴走してアウトになる。野球になっていない部分がある」と指摘する。

「だけど、球は150キロ近い、打者も打つ。精度は低いけど、単純に能力が高い。そこから徐々に精度を上げて、メジャーリーガーになっていくシステム。身体能力を上げる練習をやるのが、日本と大きく違う。日本はその1球で負けるんだという緊張感でノックをやるし、打撃も相手を研究して試合に備える。中南米はスイングを速くする、強くするのが優先。守備も素早く投げるところにフォーカスしてやっているのでフィジカルが優れていると感じました」

 どちらが正しいとか間違いとかではなく、文化の違いである。両方を知る谷口さんは、いいところを取り入れた指導を心がける。大きなタイヤやハンマーを使用したトレーニングも行っている。成長期の小中学生にもある程度の筋力トレーニングは必要との考えがあり、「過剰な負荷はいけませんが、適度な刺激は成長につながる。懸垂や腕立て伏せでもいい。早い段階からやった方がいいと思っています」と語る。

「日本人のいいところは柔軟性。可動域がしっかりある。そういうトレーニングは中南米より進んでいる」。さらに、きめの細かい野球を幼少期から教え込まれる日本は「短期決戦に凄く強い」という特徴がある。

「双方のいい部分を取って、育成していくのが理想だと思います」。日本の良さと中南米の良さ。それぞれの長所を取り入れ、若い才能を伸ばしていく。谷口さんだからこそ、できる指導がある。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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