ドジャースはなぜ“魔改造”を連発? お払い箱の選手でも…組織一丸でサポート、当事者語る「人間力」

ドジャースのジャック・ドレイヤー(左)とアレックス・ベシア【写真:黒澤崇】ドジャースのジャック・ドレイヤー(左)とアレックス・ベシア【写真:黒澤崇】

ドジャース移籍で開花したベシア「コーチングスタッフが非常に優秀」

 大谷翔平投手、フレディ・フリーマン内野手、ムーキー・ベッツ内野手など球界を代表するスーパースターを数多く擁するドジャース。「銀河系軍団」などと評されることもあるが、強さの理由はそれだけではない。他球団で芽が出なかった選手や、名もなき若手がドジャースに加入後、開花するパターンは数知れない。当事者の話から“魔改造”を成功させてきた秘訣に迫る。

 5試合、4回1/3、10失点(自責9)、防御率18.69。

 これはアレックス・ベシア投手がメジャー1年目の2020年にマーリンズで残した成績だ。被安打7本のうち3本がホームラン。イニング数を上回る与四球7も目立つ。サンプル数が少ないとはいえ、華々しいデビューとは言えないのは明白だ。

 翌年2月、ディラン・フローロ投手とのトレードでカイル・ハート投手とともにドジャースに加入した。ここからベシアのキャリアは一変する。移籍1年目から41試合に救援登板し、防御率2.25と好投。2022年からは4年連続で50試合以上に登板し、この期間の防御率は2.74と安定した投球を続けている。

 ブルペンに欠かせぬ存在へと成長した30歳の左腕。変貌の理由を「ここのコーチングスタッフは非常に優秀なんです」と説明する。

「僕自身の話をするなら、彼らは自分の『強み』と『弱み』を知ることを助けてくれました。その上で、『弱み』を『強み』に変えるための取り組みができたんです。どうすれば良くなるかを理解させ、しっかりとコミュニケーションを図る。ここのコーチングスタッフは本当に素晴らしい仕事をしています。彼らの功績はとても大きいです」

 ベシアにとっての『弱み』はスライダーだった。「自信を持って投げる方法がよく分かっていませんでした」。2020年は全投球のうち、9%しか投げていなかったが、ドジャース移籍後の2021年には17.5%に上昇。2022年以降は毎年30%以上を占める“第2の球種”へと進化した。

 もう1つの鍵は、『強み』であったフォーシームをさらに伸ばすことだった。「最大限の結果を出すために、速球をどこに投げるべきかを学びました」。独特なアームアングルから、高めにどんどん投げ込む。球速は150キロ前後とメジャーリーグの中ではかなり遅い部類に入る。それでも、スライダーとうまく組み合わせ、空振りを量産している。

他球団からDFAされたクライン「自分を信じやすくなった」

 今のブルペンを支えているメンバーの中には、他球団からDFA(40人のロースター枠から外す措置)を受けたり、解雇されたりしてドジャースに辿り着いた選手もいる。ウィル・クライン投手や、ジョナサン・ヘルナンデス投手がそうだ。2人は先月達成されたブルペンの38イニング連続無失点という球団新記録にも貢献した。

 2023、24年とクローザーを務め、現在は右肘手術からの復帰を目指しているエバン・フィリップス投手も、2021年にレイズからDFAされた後に加入し、花開いた1人。野手では2017年にアスレチックスからDFAされ、ドジャースに来てからオールスター選手へと成長したマックス・マンシー内野手が好例だ。

 クラインは言う。「ここのスタッフやコーチたちは本当に信じられないぐらい素晴らしいんです。野球のコーチはもちろん、メンタルコーチやストレングスコーチら全員がそれぞれの仕事に本当に優れています。そしてコミュニケーションも素晴らしい。3Aにいた時でさえ、それは一流でした。だから彼らと一緒に取り組めたことで自信がついたんです」。

ウィル・クラインはマリナーズからDFAされてドジャースに加入した【写真:黒澤崇】ウィル・クラインはマリナーズからDFAされてドジャースに加入した【写真:黒澤崇】

 昨年5月にマリナーズからDFAされる直前は、3Aで防御率7.17と苦戦していた。そんな右腕にドジャースのコーチングスタッフ、チームメートが「自分を信じること」を植え付けた。「誰もが自分を信じ、他のみんなを信じているんです。おかげで僕も自分のことを信じやすくなりました。それが一番大きかったですね」。新球種のスイーパーも習得し、勝ちパターンを任されるまでになった。

3Aで防御率7.17の絶望→「人生全てが変わった」72球 ドジャースの“一流環境”で激変…WSで英雄になるまでの150日間

マクギネス投手コーチ補佐が明かすコミュニケーションの真髄「型にはめないように」

 2人の選手が共通して称賛した「コミュニケーション」。実際に指導にあたるコナー・マクギネス投手コーチ補佐がその真髄を明かしてくれた。

「新しい選手が入ってきた時に常に重要になるのは、彼らの過去、現在をしっかりと把握し、我々が彼らにどうなってほしいのか、彼ら自身がどうなりたいのかを理解することです。その時にこそ、真の納得が得られるのだと思います」

コナー・マクギネス投手コーチ補佐【写真:黒澤崇】コナー・マクギネス投手コーチ補佐【写真:黒澤崇】

マクギネス投手コーチ補佐が明かすコミュニケーションの真髄「型にはめないように」

 新加入選手に「これをやらなきゃダメだ」と指図するのではなく、「こんなことに気づいたんだけど……」と改善点を指摘し、メニューを提示する。さらに、他球団で試してきたことの聞き取りを行う。時には「自分はすごく気に入っていたのに、前の球団は気に入ってくれなかった球種はある?」と聞くことも。結果的に、移籍前は球団方針で“封印”していた自慢の球を解禁させるケースもある。

「誰かを型にはめないようにすること。選手を最適化し、抱くかもしれない恐怖を取り除くために必要な全てを提供すること。非常に厳しいリーグですからね。自信は大きな要素です。絶大なものです。彼らに武器を与え、なぜ自分の球が通用するのかを理解させることができれば、自信を育てることに繋がります。恐怖を消し去り、自信を育てる。そうすれば、楽しい快進撃を見ることができます」

 新加入選手に「これをやらなきゃダメだ」と指図するのではなく、「こんなことに気づいたんだけど……」と改善点を指摘し、メニューを提示する。さらに、他球団で試してきたことの聞き取りを行う。時には「自分はすごく気に入っていたのに、前の球団は気に入ってくれなかった球種はある?」と聞くことも。結果的に、移籍前は球団方針で“封印”していた自慢の球を解禁させるケースもある。

「誰かを型にはめないようにすること。選手を最適化し、抱くかもしれない恐怖を取り除くために必要な全てを提供すること。非常に厳しいリーグですからね。自信は大きな要素です。絶大なものです。彼らに武器を与え、なぜ自分の球が通用するのかを理解させることができれば、自信を育てることに繋がります。恐怖を消し去り、自信を育てる。そうすれば、楽しい快進撃を見ることができます」

生え抜きのドライヤー「欠けているピースの改善を支援してくれる」

 生え抜きの若手育成にもこの方針は当てはまる。

 ジャック・ドレイヤー投手は2021年のドラフトで指名漏れとなったが、ドラフト外でドジャースに入団した。昨年メジャーデビューすると1年目から67試合に登板し、防御率2.95の好成績を残した。今季は一時、左肩の違和感で15日間の負傷者リストに入ったものの、貴重な左の救援投手として存在感を示している。

ドジャース生え抜きのジャック・ドレイヤー【写真:黒澤崇】ドジャース生え抜きのジャック・ドレイヤー【写真:黒澤崇】

 ドジャース以外の球団に在籍経験のない27歳に、あえて聞いてみた。「ドジャースの選手育成は何が特別なのか」と。

「確かに僕はドジャースのことしか知りませんが、他の選手から他球団のことは聞いたことがあります。結局のところ、ドジャースは非常にホリスティック(包括的)に物事にアプローチしているのだと思います。球種や球速のことだけ見るのではなく、家族やフィールド外のこと、メンタルトレーニングなども考慮に入れています。球団はそれら全てをうまく把握し、連動するようにできています」

 あくまで選手も人間。心が乱れれば、グラウンド上のパフォーマンスにも影響しかねない。技術面以外でも、不安を少しでも取り除くためのサポート体制が整っているという。もう1つ、ドレイヤーが挙げたのは、ベシアが指摘した「弱み」の克服に繋がるものだ。

「他の要素は全て揃っているのに、良い選手になるために必要な小さなピースが1つだけ欠けていることがあります。ドジャースはそれに気づき、他の長所を伸ばし続けながら、その欠けているピースの改善を支援してくれます。それが、ただの選手を素晴らしい選手に変える秘訣だと思います。だから僕たちのロースターは、これだけ層が厚いのだと思います」

 もちろん、埋もれた才能を発掘するスカウト部門の活躍も無視できない。マクギネスコーチも「私たちは恵まれています」と、原石を獲得してくるフロントオフィスに感謝する。実はマクギネスコーチ自身も、選手としてはプロ経験がなく、バーテンダーなど様々な職をこなしてきた異色の経歴の持ち主だ。次回は、そんな実績のない男がドジャースに欠かせない存在になるまでの軌跡を取り上げる。

(鉾久真大 / Masahiro Muku)

RECOMMEND

CATEGORY