「野球はオープンな雰囲気がない」 園児父の声が転機…部員6倍増に繋げた“体験練習会”

東京・清瀬市「野塩キッズ」の活動の様子【写真:フィールドフォース提供】
東京・清瀬市「野塩キッズ」の活動の様子【写真:フィールドフォース提供】

「キッズ野球」でチームが活性化…野塩ファイターズの取り組み

 競技人口の減少が叫ばれて久しい学童野球。少子化の影響をはじめとする逆風の中、どのチームも工夫を凝らした体験会を行うなど、新規入部選手の勧誘には苦労している。東京都清瀬市で活動する「野塩ファイターズ」は幼稚園年少から小学2年生までの野球初心者を対象に、体験会と一体となった、垣根の低い練習会でキッズを集めている。

 午前9時の練習開始から1時間半が過ぎた、午前10時30分頃。中村三男監督の周りに、自然と子どもたちが集まる。「野塩キッズ」の活動は、3時間の練習の途中に「おやつタイム」がある。

 中村監督から、ひとりずつ手渡されたおやつを賑やかにほおばるキッズたち。

「いくつかの種類のお菓子を、ひとり用に分けて詰め直しているので、大袋で売っていて、中身がひとつずつ個包装されているタイプのお菓子がいいんですけど、最近は減ってるんですよね。コスト削減なのか、環境問題なのか……」

 選手たち一人ひとりに、おやつの小袋を配り終えた中村監督が、そんな言葉をつぶやきながら、笑顔を見せる。

「練習を始めて1時間と少し。だいたいこれくらいで、彼らの集中力が切れてきます。それで、おやつタイム。みんな分かってるから、この時間になると、自然と集まってくるんです」

 わいわいと騒ぎながら、おやつタイムを過ごすキッズたちは、体力は有り余っているように見えるが、なるほど、集中力は別物ということなのだろう。

「野塩キッズ」には年少〜小学2年生が通う【写真:フィールドフォース提供】
「野塩キッズ」には年少〜小学2年生が通う【写真:フィールドフォース提供】

野球チームは敷居が高いのか…園児に積極アピール!

 中村監督が中心となり、幼稚園の年少から小学2年生までの子どもたちを対象に始めた「野塩キッズ」の取り組みは、「今年で7、8年になりますね」(中村監督)。きっかけは、チームの選手減少だった。

「ある年、チームの選手数が全学年合わせて、わずか8人になったんです」と、岩崎英明チーム代表が振り返る。

「その年は、近隣のチームと合同で大会に出ていました。なんとかしないとな、なんて話をしていると、幼稚園児のきょうだいがいる選手のお父さんが、こんなことを言ったんです」

 いわく、幼稚園にも野球を始めたい子はいるのに、野球は積極的な呼び掛けやオープンな雰囲気がなく、どうすれば始められるのか、チームに入れるかどうかも分からない。結果的に、幼児クラスがあるサッカーくらいしか選択肢がないような状況になっている、というのだ。

「野球は少し敷居が高い、と感じていたようなんです」

野塩ファイターズ・中村三男監督【写真:フィールドフォース提供】
野塩ファイターズ・中村三男監督【写真:フィールドフォース提供】

 確かに、学童野球チームはもともと、小学校単位で発足していたり、小学校の課外活動といった位置づけの歴史を持つチームも多い。連盟の「学童」カテゴリーは小学生が対象で、選手登録も小学1年生からだ。チームの側からアピールしなければ、小学校に上がってからでなければ入部・入団できないと思われても仕方がない。

 それならばと、野塩は近隣の幼稚園でビラを配らせてもらったり、選手の友人にも声を掛けてもらったりと、園児にも積極的に呼び掛け、キッズの取り組みをスタート。「幸いにも、近隣幼稚園の園長先生が野球経験のある方で、そのグラウンドで未就学児だけの体験会をさせてもらったり、そんな活動もできています」(岩崎代表)。

 グラブやバットも、先輩たちのお下がりがあるから、手ぶらで参加すればOK。そうして敷居を下げた活動を始めると、徐々に子どもたちが集まるようになったという。今では市内だけでなく、近隣地区から参加する子も。現在、野塩ファイターズは17人のキッズを含め、51人のメンバーで活動している。

「おやつタイム」ではみんなが笑顔【写真:フィールドフォース提供】
「おやつタイム」ではみんなが笑顔【写真:フィールドフォース提供】

野球未経験の父母も積極的にチームに関わり

 練習の様子をしばらく見ていると気づくが、野塩キッズの練習は相当に「緩い」。ベースを置き、コーチの投げる緩い球を打って走る“実戦形式”の練習では、ボールを打って三塁に向かって駆け出す子もいれば、ベースを離れて地面にお絵かきを始める子、塁に到達するや、ベースのキャンバスに腰かけてしまう子もいる。

 そして、それらはすべて許される(優しく諭されるが)。フライを“ノーバン”でキャッチできれば大拍手だ。

「子どもたちを怒ったことは一度もありません。“野球は楽しい”と思ってもらうためにやっているわけですから」

 そう話す、中村監督の表情は優しい。それぞれのベースの周りには選手たちの父母がいて「ベースを踏んでから、あっちだよ」などと、子どもたちに声掛けしている。「お父さんやお母さんの協力なくしては、野塩キッズの練習は成り立ちません」と中村監督が笑う。

 ここでは野球経験のある父母もない父母も、積極的に練習の補助をしている。

 幼児対象の「スクール」や「アカデミー」とは違い、野球の技術を教え、学ぶための場というよりは、父母も一緒になって作り上げる、野球を媒体としたコミュニティーと呼ぶのがふさわしいかもしれない。実際、「野球を始めたい」と体験に来る子もいれば、「園以外に、みんなと一緒にいられる場所」を求めやって来る子もいるのだという。

 今は「打てて楽しい」「ボールが捕れて楽しい」「走れて楽しい」で十分。参加したすべての子どもたちが、それぞれの距離感で野球に親しみ、ゆっくりと野球選手になってゆく。これも野球チームとして、ひとつの理想的な形といえるのではないか。

練習を終えた後は全員でしっかりあいさつ【写真:フィールドフォース提供】
練習を終えた後は全員でしっかりあいさつ【写真:フィールドフォース提供】

もっと気軽に! 野球好きな子どもを増やすために

 もちろんそんな中でも、フライやゴロをうまく捕れずに、悔し涙を流す選手もいる。そんな子はやはり、上達も早いそうだ。

 練習メニュー自体は、経験豊富な石田和仁ヘッドコーチによりしっかり組み立てられており、レベルの高い選手は、早々にキッズを卒業し、4年生以下のジュニアチームに「飛び級」で移っていくこともあるという。

 高学年になれば、チームはもちろん試合での勝利を目指すことになるが、「それでも一番大切にしたいのは、野球が好きな子どもが増えてくれること。それがチーム活動の中心だと思っています」と岩崎代表。「こんなチームが増えてくれたら、うれしいですね」。

 親子でキャッチボールをしようにも、公園では自由にボール遊びができない時代。それならいっそ、グラウンドに行って、キッズ野球に参加してみよう――。

 そんな選択肢が一般的になったとしたら、野球の未来にも希望が持てるだろうか。そんな想像も抱かせる、野塩キッズの取り組みなのだ。

〇鈴木秀樹(すずき・ひでき) 愛知県出身。フリーライターとして「東京中日スポーツ」「東京新聞」で学童野球を中心に扱う「みんなのスポーツ」コーナーの記者兼デスクとして取材、執筆と編集業務全般を20年以上担当。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて取材、執筆中。

https://www.fieldforce-ec.jp/pages/know

(鈴木秀樹 / Hideki Suzuki)

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