離島から全国初出場の“快進撃” 口コミだけで700万円支援…野球離れ時代に叶えた夢

「全日本少年軟式野球大会」に初出場した離島のチーム・隠岐ベースボールクラブ
中学軟式野球の日本一を決める“中学生の甲子園”「第43回全日本少年軟式野球大会ENEOSトーナメント」が8月10〜14日に横浜スタジアムで行われ、中国地区代表として隠岐ベースボールクラブ(島根、以下隠岐BBC)が初出場した。快進撃は街の話題をさらったが、離島からの全国大会出場は、様々な“ハンディ”に直面したという。選手や関係者に話を聞いた。
隠岐BBCは、島根県の隠岐諸島にある4つの島からメンバーが集まり、構成されるクラブチームだ。島間移動は船で1時間ほどかかるため、集まるのは主に週末。最も大きな島である島後(どうご)の隠岐の島町で半日ほど練習する。島の中学校や本土の中学校とは月に1度練習試合を行う。都合が合わない時は島内の大人たちと試合をすることもあるという。
そんな人口約1.7万人の島々から集まった32人が県大会、中国大会を勝ち抜き、中国地区代表として全国出場を決めた。井上北斗監督は、「長年の夢で、すごい反響だった」と語るが、立ち塞がったのは費用の問題だ。「保護者が旅行会社の方と試算してくださったんですが、部員全員の移動費、宿泊費、食費、滞在中に練習をするための費用、その他諸々を含めると700万円ほどになってしまうと聞きました」。
そこで、井上監督が中心となって寄付を募ることが決定した。保護者会長を務める山本大介さんは振り返る。「島民から始まって、本土の親戚や、隠岐出身の県外の方まで広がって、目標の700万円を大きく超えるお金が集まりました。SNSの告知はほとんど反応はなくて、高齢の方も多いので、口コミの方が合っていたのかもしれません」と振り返った。費用の問題は無事クリアし、横浜スタジアムに足を踏み入れた。
夢の舞台でも“離島のハンディ”に直面した。先発したエースの前田健成投手(3年)は、立ち上がりが安定せず、初回に3点本塁打を被弾。山根賢吾投手(2年)にスイッチしても失点は止まらず、慣れない人工芝の前に、守備陣は3失策を犯した。「週末にしか集まれないですし、練習試合を毎週できるわけではないので、練習量や実戦経験の差はあったと思います」と主将の山本洸悦内野手(3年)は唇を噛む。

“ハンディ”痛感も…快進撃で見せた「離島の可能性」
しかし、3回には主将の山本を筆頭にファインプレー3連発が飛び出すなど、選手たちの躍動に球場は大きく沸いた。試合後には涙も見せていた井上監督だったが、「なかなか実戦ができない分、精神面を大切にしてきました。挨拶だったり、ボールが落ちていないだとか、ベンチがきれいになってるかをまず見直して、週末の短い時間でノックや、ボール回しを秒数を決めて実施して、集中して取り組んできた成果かもしれないです」と笑顔で称えた。
隠岐の中学生たちは、小学生時代から全国大会に出場するのが難しく、勝ちたい思いを抱えた子たちが隠岐BBCに集まりやすい。しかし、島の人口は減少傾向にあり、高いレベルを求めて、本土の高校や県外に進む子も増えてきている。最近は野球そのものを選ぶ子も多くはなく、野球離れは進行しているという。

今回の戦いぶりについて井上監督は、「島からでも全国に行けるんだよと伝えてきました。少しでもその可能性を示すことができたと思います」。卒業する選手たちには島内の高校に進んでもらいたいと漏らすが、「島外でチャレンジしたい気持ちも後押ししてあげたいなと思っています」。指導者としての難しい思いものぞかせる。
全国大会では初戦で敗れ涙に暮れたが、離島からの快進撃は多くの人の記憶に刻まれた。島内には硬式の野球部を持つ隠岐高校が存続し、隠岐BBCのOBも在籍する。子どもたちが島で野球を続けたいと思える土壌はある。隠岐BBCがこれからも“夢への階段”であり続ける未来を願うばかりだ。
(磯田健太郎/Kentaro Isoda)
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