技術が高くてなぜ重圧に負ける? 上手さと強さは「全く別」…野球に欠かせぬ“心の鍛錬”

「年中夢球杯」で指導者が感じた“パーフェクトノック”効果
窮地の場面でも本領発揮できるメンタルを育むにはどうするか、悩む少年野球の指導者は多いことだろう。全国を飛び回る人気野球講演家・年中夢球(ねんじゅう・むきゅう)さんは、「上手くなることと、強くなることとは、違う指導が必要になる」と語る。9月22日に埼玉・さいたま市で開催された「年中夢球杯2026 全国学童軟式野球大会」での名物「パーフェクトノック」に、そのヒントが隠されている。
「年中夢球杯」は今年で3回目を迎え、北は北海道、南は宮崎まで全国49チームが参加した。台風25号の影響で3日間の日程が1日に短縮され、3チームずつに分かれてのリーグ戦を行う形式となったが、希望チームを対象に試合間に実施したのが、“心を鍛える”「パーフェクトノック」だ。
三塁・遊撃・二塁・一塁と内野の4ポジションに分かれ、1死満塁想定で年中夢球さんが1人ずつ順番にノック。捕球・本塁返球を繰り返し、全員一体でノーエラーの“完璧なノック”を完成させるというもの。参加するのは選手たちだけではない。監督・コーチら大人も白球を追い、一緒になって汗と泥にまみれ、時に恥もさらけ出す。
決して全国大会の余興などではない。「グラウンドに入ったら歩かない!」「お喋りをしているのではなく周りを応援しよう!」。年中夢球さんの一言一言で、ピリッと高まる緊張感。捕球ミスをした子には、「次にエラーしたら、最初から全員やり直しだよ」と容赦なくプレッシャーがかかる。今回は日程変更の影響もあり、1日で30チーム強を3班に分け、計400人近い参加者へ繰り返しノックの雨を降らせた。
「技術指導を追い求めることは、もちろん大切です。それと同時に、心の強さも野球では大切。上手くなっても大事な場面でプレッシャーに負けてしまう、練習の力が試合で出せない、などの悩みを抱えているチームは多いです」
悩める指導者に請われ、年間100前後のチームを回る年中夢球さんは、そう語る。技術を教えれば“上手さ”は身に付く。ただし、その“上手さ”をグラウンドで出し切るには同時に“心の強さ”も大事になる。手をマメだらけにしながら、「上手くなるのと強くなるのとは、全く別のことやらなきゃいけない」と力説する。

楽しい野球も良いが…苦しい時に「歯を食いしばれる人間に」
大会でのパーフェクトノックは各1時間程度だが、チームに赴いて行う際には3時間、4時間と続くという。重圧のかかるシチュエーションでボールを追い、仲間たちが声援を送り、特別な一体感が生まれる。最終的にノックが完成した時に子どもたちから上がる大歓声が、単なる“根性練”との違いを示すものだ。
兵庫・淡路島から出場した「いざなぎ少年野球クラブ」も、今年2月にパーフェクトノックを依頼したチームの1つ。赤羽根佑基監督は、おとなしかった選手が声を出すようになり、試合での一体感と粘り強さが向上したと口にする。「自主性を重んじながらも、チームを1つにまとめる難しさを感じていましたが、練習から前向きな言葉が出るようになった。試合でもピンチに耐える力、畳み掛けてワンチャンスをものにする力がつきました」と、今回の全国大会出場につなげた。
群馬から出場の「新里スターズ」は、今大会でパーフェクトノックを初体験。「今の時代は“楽しい野球”が先行しがちで、それはそれで良いのですが、苦しい中でも歯を食いしばれる人間になってもらいたい思いもある。(年中夢球さんの考えに)ものすごく共感できます」と田上健次郎監督。ノック直後の試合で、一昨年のミズノドリームカップ、昨年のマクドナルド・トーナメントで果たせなかった念願の“全国1勝”を手にし、「先制されても諦めずに切り替えて逆転できた。成長が感じられました」と笑顔を見せた。

厳しさがハラスメントと混同されがちな時代、指導者の思いも揺れるが、子どもたちの将来を思う気持ちは一緒だ。たった一人でボールを打ちまくり、最後に周りを囲んだ球児たちへ「みんな頑張って、高校3年まで野球を続けて」と優しくメッセージを送った年中夢球さん。“大人の本気度”は必ず子どもたちに伝わり、心の強さを育んでくれるはずだ。
(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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