“小学生の甲子園”で見た球数制限の実態 「210球」到達は1/1033…悩む負担減との両立

3試合で211球を投じた木屋瀬バンブーズ・永嶋璃陽斗【写真:フィールドフォース提供】
3試合で211球を投じた木屋瀬バンブーズ・永嶋璃陽斗【写真:フィールドフォース提供】

「全日本学童大会マクドナルド・トーナメント」での監督たちの試行錯誤

 学童野球では「投球は1日70球まで」の規定に加えて、「1週間で210球まで」の新ルールが2026年に導入された。「小学生の甲子園」とも称される夏の全国大会は、1回戦から決勝までを6日間で行うことから、投手のやりくりも注目された。実際に、上位チームの登板人数や球数はどうだったのか。8月7日から愛媛県で開催された、「高円宮賜杯 第46回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」を振り返る。

 大会は6イニング制で、47都道府県の予選を制した49代表(北海道と東京は2枠)と、開催地3枠、前年度優勝の計53チームが出場する。今大会の登録選手は、1033人。そのうち既定の「210球」に達した選手が1人だけいた。

 2年連続でベスト8入りした、木屋瀬バンブーズ(福岡)のエース、永嶋璃陽斗投手(6年)だ。同チームは1回戦シードで、2回戦から登場。永嶋はその初戦から3試合連続で先発し、70球(完投)、72球と2日連続で1日の規定リミットまで投げ抜いた。「210球」まで残り68球で迎えた3日目の準々決勝は、4回までに「64球」を投じて5年生右腕へバトンタッチ。そこまでは4-1とリードも、5回に同点とされ、試合は既定の90分を超えたことから、無死一、二塁で始まるタイブレークへ。

 迎えた6回裏、1死満塁のピンチで永嶋が再登板し、5球で空振り三振を奪って計211球に。この好救援もあって6回は無失点、続く7回にサヨナラ負けしてエースは「悔しいです」と号泣したが、3連投のマウンドで自身大会最速の111キロをマークするなど、パフォーマンスの落ち込みは見られなかった。

長曽根ストロングスの胴上げ右腕・山瀬晴【写真:フィールドフォース提供】
長曽根ストロングスの胴上げ右腕・山瀬晴【写真:フィールドフォース提供】

「目の前を全力でいかないと、全国ではなかなか勝てない」

 木屋瀬バンブーズが戦った3試合で他に登板したのは、前出の5年生右腕のみで、球数は2試合で計45球。率いる中川芳生監督は大会中、「210球のことも頭にはあるけど、目の前を全力でいかないと、全国では簡単に勝たせてもらえませんから」と話していたが、大会前半戦は同様の声が他チームからも複数聞かれた。

 準々決勝で敗退後の中川監督は「やっぱり楽にはいきませんでした。永嶋は目一杯によくやりましたし、きょうは相手の力が上でした」と脱帽。

 その“相手”であった多賀少年野球クラブ(滋賀)は、今大会で唯一、1回戦から決勝まで6試合を戦った。決勝は前年度優勝枠の長曽根ストロングス(大阪)が相手で、こちらは1回戦シードのため2回戦から5試合。大会は長曽根の2連覇で閉幕している。ちなみに、両チームは19回目の全国出場だった。

決勝で完投した多賀少年野球クラブ・岸本來橙【写真:フィールドフォース提供】
決勝で完投した多賀少年野球クラブ・岸本來橙【写真:フィールドフォース提供】

 ベスト4以上で登板人数が最も少なかったのは、長曽根で3人。球数は2人が100球強で、最多は準々決勝から3連投したエース、山瀬晴投手(6年)で計192球だった。5試合ノーエラーという鉄壁の守備力が、3投手で乗り切れた大きな要因だろう。

 登板人数の最多は多賀で7人。「ウチは全員がレギュラー」と辻正人監督が語るように、スタメンは毎日異なり、登録25人のうち23人が出場した。フル出場は、決勝で完投したエースの岸本來橙投手(6年)と、捕手兼務の生川友翔投手(6年)の2人だけで、岸本の球数は4試合で計149球、生川は5試合で計188球。この看板2選手の負担は、ほか5投手の登板で大いに軽減されたと見ることができる。

全国大会で台頭、計122球を投じた船橋フェニックス・小池拓海【写真:フィールドフォース提供】
全国大会で台頭、計122球を投じた船橋フェニックス・小池拓海【写真:フィールドフォース提供】

上位4強は投手3人以上…「選手に怪我をさせない」を最優先の采配も

 3回目の出場で3位に入った船橋フェニックス(東京)も同様だった。このチームは大型のタレント軍で、120キロ前後を投じる左右の2本柱が脚光を浴びたが、前半戦の3試合はほかの4投手でほぼ乗り切った。121キロ左腕の大野凌駕投手(6年)は3試合登板で球数は51球、119キロ右腕の森下貴斗投手(6年)は2試合で85球と、いずれも100球以下。率いる岡本隼人監督は「選手に怪我をさせない」ことを指導の最優先にしており、それが全国大会の采配にも見て取れた。

 初出場で3位へと大躍進した、南瀬谷ライオンズ(神奈川)も同様。「1人の選手に過度な負担をかけない」(渡邉記章監督)との方針が、全国舞台でも貫かれた。週末の土日にそれぞれ試合があるときも、「基本的に2連投はさせません」と語る渡邉監督は就任5年目。今年は6人の投手を育成・起用しながら、激戦区の神奈川予選も制して全国大会に初名乗り。

 迎えた大舞台は2回戦からの登場で、準決勝までの4試合で4人が登板した。そのうち3人は連投したが、3連投以上で球数が100球を超えたのはエースの音村星茶投手(6年)のみ(計173球)。そのエースが先発したのは2回戦と準決勝だけで、救援した2試合は19球、24球と球数は抑えめで、決勝は未登板の2人を含む6投手のスクランブル態勢が予定されていたのかもしれない。

チームで唯一の3連投もあった南瀬谷ライオンズ・音村星茶【写真:フィールドフォース提供】
チームで唯一の3連投もあった南瀬谷ライオンズ・音村星茶【写真:フィールドフォース提供】

 柱となるエースはいても、5連戦、6連戦となれば少なくとも3投手は必要。そして、いかに1人の負担を軽減するかが、勝ち抜くカギとなる。今夏の「小学生の甲子園」から読み取れたのは、ごく当然で真っ当なことだったが、それこそは新ルールの意図するところ。選手に怪我をさせていないチームが上位に残ったのも、偶然ではないだろう。

 またそこには、選手の絶対数も関与すると思われる。今大会出場の53チーム中、25人の登録枠を満たしたのは、前年から1増で8チーム(15.1パーセント)。6年生が9人以上いたのは、前年と同じく30チーム(56.6パーセント)。上位2チームは、どちらも該当していた。

○大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」でロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中。JSPO公認コーチ3。

(大久保克哉 / Katsuya Okubo)

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