あえてど真ん中に直球投げて先頭被弾… 苦境の開幕投手が実験した「思いつき」

中日・福谷浩司【写真:荒川祐史】
中日・福谷浩司【写真:荒川祐史】

6月13日の西武戦、先頭打者の岸に初球を左翼スタンドへ運ばれた

 その試合の1球目を、左翼スタンドに運ばれた。出端をくじかれたと誰もが思った。ただ、投げた当の本人だけは心持ちが違った。「ど真ん中を狙って投げたら、ど真ん中にいったんですよ」。無考えでも、ヤケクソでも、笑えない冗談でもない。敗戦投手になった責任を放棄しているわけでもない。日々、投球の“解”を導き出すために重ねる“実験”の成果に、頷いただけだった。【小西亮】

 6月13日、メットライフドーム。中日の福谷浩司投手は、西武戦の先発マウンドに上がった。初回の先頭打者・岸潤一郎に投じた145キロの直球。捕手の桂依央利は外角にミットを構えたが、投じた初球は確かにど真ん中に入った。結果的に決勝点となった被弾。単なる失投というわけではなかった。

 登板直前のブルペン投球に時間を戻す。「あ、この感じいいかも」。ふと、沸き立つ感覚があった。リリースする際の力感や、球の軌道イメージ……。手応えを頼りに、端からでは絶対に気づかない微細なフォーム変更を行った。ただ、ブルペンと試合のマウンドは別物。意図した通りに球がいくかという対打者への“試投”を痛打された格好にはなったが、今季6敗目と引き換えに兆しが見えたのも確かだった。

 プロ8年目の昨季、沢村賞を受賞した大野雄大に次ぐチーム2位の8勝を挙げ、再起を証明した。2012年のドラフト1位で入団し、プロ2年目に救援で開花。黄金期を支えた岩瀬仁紀に代わるクローザーとして期待されたが、そう簡単ではなかった。先発に転向した2019年には椎間板ヘルニアを発症し、わずか1試合登板。背水に追いやられそうな立場から、コロナ禍の2020年に潮目が変わった。

 周囲が真価を問う今季、もちろん昨季の成功体験を土台にして築き始めた。「ずっとやってきたことを継続するは大事だと思っていましたから」。ところが、体作りの段階から違和感しか残らない。「同じようにトレーニングをしても、体の反応が違うんですよね。そこに驚いてしまった自分がいました」。胸の内に、葛藤が生まれる。それでも継続すべきか、視点を変えるべきか――。「モヤモヤした状態」は、シーズンが開幕してからも続いた。

方法論に目を向ける「昨日とは違う自分になるために」

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