少年野球での“投げ過ぎ”が及ぼす影響 肩や肘の重篤な故障リスクは3.5倍

怪我をしない体作りのコツとは
怪我をしない体作りのコツとは

少年野球選手を10年間にわたって追跡調査

 肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球上達への“近道”は「怪我をしないこと」と語ります。練習での投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが自動的に算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。

 では、成長期の選手たちが故障せず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、いったいどのようなことなのでしょうか。古島医師は休養の重要性を訴える一方で、体を鍛えたり、柔軟性を高めたりすることも必要だと話します。この連載では、慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが、実際の研究に基づいたデータも交えながら怪我をしない体作りのコツを紹介していきます。今回の担当は綿貫大佑さんと貝沼雄太さん。テーマは「10年間の追跡調査からみた少年野球選手の怪我のリスクについて」です。

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 成長期の怪我は未熟である骨に起きることが多く、代表的には「リトルリーグショルダー」と呼ばれる腕の骨の成長軟骨の離開や「リトルリーグエルボー」と呼ばれる肘の内側の成長軟骨の離開があります。これらの怪我はおおよそ3か月程度の投球禁止による安静で痛みはなくなります。

 成長とともに骨がしっかりとすると怪我は靭帯や軟骨に起きます。代表的には肩関節の関節唇と呼ばれる部分の損傷や肘の内側の靭帯損傷などがあります。その中には手術を必要とする場合や野球の継続を困難にする場合もあります。

 今回は10年間にわたって少年野球選手の追跡調査を行った研究を紹介します。「The American Journal of Sports Medicine」という雑誌で紹介されている研究です(※1)。

 この研究では9歳から14歳の481人の少年野球選手を対象に10年間の追跡調査を実施。目的は、投球を原因とした肩関節と肘関節の手術、そして投球障害により野球を引退するような重篤な怪我が発生した確率を明らかにすることでした。さらに、潜在的な危険因子と怪我との関連についても調査を行なっています。(1)投球数の多い投手は怪我のリスクが高い(2)少年野球時にカーブを投げていた投手は怪我のリスクが高い(3)捕手も兼任していた投手は怪我のリスクが高い、という仮説をもとに調査が行われました。

 その結果、野球キャリアにおいて10年以内に肩関節もしくは肘関節の手術、引退となるような重篤な怪我が発生した確率は5%でした。20人に1人が重症となってしまうと考えると高い発生率のように思います。また1年間に100イニング以上投げた人は、怪我のリスクが高くなっていました。具体的には、少なくとも1シーズンで100イニング以上投げた選手は、投球回数が少ない選手に比べて約3.5倍の確率でリスクが高くなりました。少年野球でカーブを投げることによるリスク、捕手と投手の兼任によるリスクに関しては、今回の研究では関連性を明らかにすることはできませんでした。

 以前の記事「疲れていると怪我の確率は約8倍に 1日2試合以上の投球、連日の投球は避けるべき?」でも触れましたが、腕に疲れを感じながら投球したことがない投手と比較して、腕に疲れを感じながら投球することが多い投手は投球に関連する怪我訴える確率が7.88倍高くなり、疲れを感じながら投げることがある投手は3.71倍高くなっていると報告があります(※2)。今回は捕手と投手の兼任によるリスクに関しては明らかにはなりませんでしたが、投手と同じように、投球機会の多い捕手との兼任は他のポジションに比べるとどうしても肩関節と肘関節への疲労が蓄積することが考えられるため、リスク管理の観点から考えると避けるべきと思われます。

 少年野球期からの10年間は夢のプロ野球選手を目指す大切な時期です。その間に大きな怪我をしないというのはとても大事なことです。ある程度のキャリアになれば自身で管理することが求められますが、特に少年野球の間は周りの指導者や保護者の皆さんの協力が必要です。多少でも参考にしていただけると幸いです。

▼参考文献
※1  Fleisig GS, Andrews JR, Cutter GR, Weber A, Loftice J, McMichael C, Hassell N, Lyman S. Risk of serious injury for young baseball pitchers: a 10-year prospective study. Am J Sports Med. 2011 Feb;39(2):253-7.
※2 Yang J et al. Risk-Prone Pitching Activities and Injuries in Youth Baseball: Findings From a National Sample. Am J Sports Med. 2014 Jun;42(6):1456-63.

◯古島医師が監修する肩・肘の故障予防アプリ「スポメド」のダウンロードはこちらから
https://info.spomed.net/

(Full-Count編集部)

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