WBCで転換期を迎えた“日本野球” 大谷&ダルらがもたらした「ベースボール」の本質
「野球」と「ベースボール」は文化の違い…忘れたくない「楽しむ」という本質
侍ジャパンの優勝で「第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」は幕を閉じた。メジャーリーガーが揃う米国代表との決勝戦。栗山英樹監督は「アメリカに勝つために来た」と海を渡り、目的を果たした。19世紀中頃に米国で生まれ発展した「ベースボール」は、日本で「野球」という名で、文化として形作られた。一流メジャーリーガーらが侍ジャパンに参戦したことで、また違う形の日本の野球を見ることができた。開幕から決勝まで、明るい野球の未来を描くことができた14日間だった。【楢崎 豊】
大谷翔平投手が9回のマウンドへ向かうために左翼奥のブルペンから出てきた。米国とのWBC決勝戦。米国を応援する男性ファンの1人が記者席に座る私の目の前で頭を抱えていた。“大谷が出てきたら打てないよ”……そう言いたそうに顔をしかめていた。米国代表のマーク・デローサ監督も試合前の会見で「できることならば対戦はしたくない」と漏らすなど、“クローザー・大谷”は恐れる存在となっていた。
四球を1つ出したが、1番のムーキー・ベッツ外野手を二塁の併殺に仕留め、2死。最後はマイク・トラウト外野手をスライダーで空振り三振に斬り、試合を締めた。応援していた米国のファンたちはがっくりと肩を落とすのかと思いきや……次の瞬間、侍ジャパンの選手たちへ大きな拍手を送っていたのが清々しかった。最後にその場を楽しんだことがわかる印象深いシーンだった。
準決勝のメキシコ戦では心を打つ言葉があった。不振だった村上宗隆内野手の逆転サヨナラ適時打で勝利した劇的な夜だった。敗軍の将、ベンジー・ギル監督は試合後、「日本が勝った。だが、今夜の試合は野球界の勝利なんだ」と野球の素晴らしさを伝えられたことに喜びを感じていた。日本に敗れはしたが、米国もメキシコも“グッドルーザー”だった。それぞれの国の文化がそうさせている。
野球における文化という側面でいうと、今回の侍ジャパンにもこれまでに見たことのない光景がいくつもあった。初の日系アメリカ人として招集されたラーズ・ヌートバー外野手(カージナルス)は、チームに溶け込もうとペッパーミル・グラインダー・パフォーマンスを持ち込んだ。日本語や君が代も覚えた。何よりも身を粉にして戦う「侍スピリット」を持っていた。
大谷は喜怒哀楽を体全体で表現していた。こちらはアメリカナイズした姿があった。言葉づかいや仕草、優勝時のパフォーマンスを見てもそうだ。水原一平通訳は決勝戦を終えたあとの取材で「翔平があんなに楽しく野球してるの初めて見た」と言うほど、感情を爆発させていた。小さい頃からWBCで優勝することを夢見ていた大谷がまるで少年のように楽しそうに野球をやっていた。