送球難の野手がエースに 最速129キロで智弁和歌山を抑えたスローボールの“魔術師”
100キロのスローボールが決め球…さらに腕を遅く振れば「打者は詰まる」
阪神甲子園球場で行われている「第95回記念選抜高校野球大会」は19日、大会2日目の3試合を行い、第3試合では英明(香川)が智弁和歌山との接戦を3-2で制し、選抜初勝利を挙げた。最速129キロ、主に120キロ台のストレートで攻める右サイドハンドのエース・下村健太郎投手(3年)が先発。強力打線に対し6回を投げ、8本の安打を浴びながら1失点に抑えてみせた。
ゆったりと振り抜く腕から投じる、球速100キロ前後のスローボールが“決め球”だ。先制点を狙う智弁和歌山に対し、2回2死満塁の場面でも投じた。痛打されれば先制点を許すリスクを伴う。しかし「ピンチには慣れているので、怖くないです」。遊飛に打ち取り笑顔を見せた。
昨秋の県大会や四国大会では、先発起用に加え、救援を任されることも多かった。高松商との県大会決勝では2回途中からマウンドを託され、7回1/3を被安打2、無失点の快投。さらに四国大会では宇和島東(愛媛)との初戦で1安打完封を記録し、8年ぶりの四国制覇の原動力となった。
ふわっと腕を振る投球フォームは「球が速くないので、いかに相手を打ち取るかを考えた時に、ゆっくりとしたフォームからピュッと来たら、(打者は)『思ってたより来る』と思って詰まるので」という工夫のたまものだ。打者の心理を読み、「このバッター、打ち急いでるから長く持ってみようとか」と、間の使い方も工夫している。
実は、入学時は内野手だった。ただ「元々野球を始めたときからこの投げ方がしっくりきて。上から投げたら全然ボールがいかなくて」と、一塁への送球が大の苦手だった。しかし、野手が捕りづらいなら、打者を抑えられるのではと大下大地コーチが可能性を見出し、遊撃手から投手への転向を促した。
「通用するんかなって。最初は断っていました」。野手としての欠点を独自の個性へと変え、同校を選抜初勝利へと導いた。
(喜岡桜 / Sakura Kioka)