3冠王も夢ではない、大谷翔平の打撃を向上させた“意識”とは… 井口資仁氏が分析

エンゼルス・大谷翔平【写真:ロイター】
エンゼルス・大谷翔平【写真:ロイター】

調子を上げるきっかけとなった5月下旬のホワイトソックス戦

 エンゼルスの大谷翔平投手が“6月男”の本領を発揮した。投げては5試合に先発して2勝2敗、防御率3.26。打っては打率.394、15本塁打、29打点、4盗塁。7月2日(日本時間3日)に本拠地で行われたダイヤモンドバックス戦でも今季31号となるソロを放った。月間15本塁打は日本人最多で、3年連続30本塁打は日本人初。6月30日(同7月1日)の150メートル弾は今季メジャー最長弾となり、メジャー移籍以来6月に際立つ強さを見せつけた。

 歴史的な活躍について「我々の想像をはるかに超える規格外という感じですよね」と話し、笑うしかないという様子を見せるのが野球評論家の井口資仁氏だ。ホワイトソックス、フィリーズ、パドレスと3球団で4年プレーした井口氏に、二刀流・大谷翔平の凄さについて、改めて解説してもらった。

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 ホームラン15本で、打率はほぼ4割。この1か月近くにわたる大谷の活躍は目を見張るものがあります。1か月に15本も打てることもそうですし、今季はすでに31本打っている。本当に見ていて楽しい選手です。

 7月1日には150メートル弾も飛び出しましたが、好調の要因はどこにあるのか。これまでも本塁打王争いを演じてきたように、そもそも長打力、パワーという資質は備えている打者です。今年はさらにパワーアップしている臨んでいますが、それ以上に高打率=打率3割を目指していきたいという取り組みが、結果としていい方向に働いているように思えます。

 今、彼が取り組んでいるのは、打率3割を目指す中でどうやってホームランを打つかというチャレンジ。打撃練習の映像を見ると、昨季までは一度バットを振り上げるように引いてから振り下ろしていたのが、今年はバットを肩の上に乗せて、その位置から最短距離でポンッと出すイメージがあるようです。もちろん、実際に試合中の打席ではバットは少し遠回りしますが、ボールを上から叩くイメージで練習をしているように見えるので、しっかりいい形でコンタクトできているのでしょう。

 なおかつ、左肘が体の中に入るように見えるくらい、しっかりたたんだスイングをするので、ボールの内側から追い込めている。だから、センター方向への打球が増えています。振り返ってみると、4月は少し広めのスタンスでかなり強引に振りにいっている場面が多くありました。おそらく、ホームランを打ちたい、遠くに飛ばしたいという思いが強かったのでしょう。その中で同地区対戦を何巡かし、色々な配球を一通り見た5月下旬、ホワイトソックスとの第2戦でジオリトの高めフォーシームを中堅へのソロ弾(13号)としてから一気に調子が上がりました。

昨季までロッテ監督を務めた井口資仁氏【写真:荒川祐史】
昨季までロッテ監督を務めた井口資仁氏【写真:荒川祐史】

井口氏「今、対戦投手はみんな投げる球がない状態でしょう」

 今季序盤に放ったアーチは、そのほとんどが変化球を捉えたものでした。どちらかというと変化球のタイミングで待ちながらフォーシームの甘い球をファウルとし、変化球をホームランにする感じだったのが、ホワイトソックスとの3連戦からはフォーシームのタイミングで入って甘い球を逃さずに捉え、変化球にも対応できている。フォーシームを本塁打にできるようになってからは、反対に対戦投手が変化球を投げるしかなくなり、その変化球も捉えている状況です。

 正直なところ、今、対戦投手はみんな投げる球がない状態でしょう。打ち取ったり空振りを狙えるのは、インハイのカットボールか、外に落ちるシンカーやチェンジアップくらい。どちらかというと相性が悪いとされる左投手に対しても、5月末頃からオープンスタンス気味に構え、両目でしっかりボールの軌道を見ているので、以前のように外角に消えるようなスライダーを空振りすることが減りました。つまり選球眼が良くなって、際どいボールは振らなくなり、打率アップにも繋がってきたのでしょう。

 開幕の時より打席でのスタンスを狭くしたり、グリップの位置も変えたりしながら、5月が終わる頃には「今年はこれでいける」という自分のバッティングの形を掴んだ感じがします。ただ、当然これからは四球が増えてきますし、厳しいところを攻められるようになる。そこをどれだけ追いかけないか。本塁打数を伸ばす方にシフトして、ゾーンいっぱいギリギリのところを追いかけるようになると、自分の打撃の形ではなく相手の思うツボになるので、今のアプローチを崩さずにいってほしいと思います。

 ギリギリの球は我慢して手を出さず、必ずやってくる甘い球を一発で仕留める。どのホームラン打者に話を聞いても、基本はこのアプローチです。ダイエー時代に師事した王貞治さんも同じことをおっしゃっていました。ホームラン打者であれば、四球は年間100以上はいく。そこで四球を減らして打とうとすると自分の打撃が崩れるので、自分が決めたストライクゾーンは崩さず、必ず来る甘い球をしっかりと1球で仕留められるタイミングで待つのが大切だと。本塁打や打点争いが激しくなってきた時、欲を出さずにグッと我慢できるかが一つのカギとなりそうです。

3冠王も狙える位置に…変えてほしくない「高い打率を残す意識」

 とはいえ、ここからは大事な場面で勝負してもらえないことも増えてくるでしょう。このままのペースで本塁打を量産できるかといったら、そう簡単にはいかないと思います。そこでぶらさずにいてほしいのが、高い打率を残そうという意識です。本塁打よりも打率を優先に考えていれば、自分のストライクゾーンの中でボールを待つことができる。本塁打に特化してバットを強振したり、ボールを追いかけたりしてしまうと、打率は下がってしまうでしょう。現時点では3冠王も狙えるシチュエーションにあるので、打率を意識しながら掴んだいい形を崩さずにいってほしいと思います。

 大谷は見ている人をワクワクさせる貴重な存在。試合中継、ワイドショー、ニュースなど、朝から晩までテレビや紙面、ネットが大谷一色となるのも当然です。おかげで我々、野球評論家も忙しい日々を過ごしています(笑)。野球は見ないという人でも「大谷翔平」という名前は知っている。日本で彼の名前を知らない人はいないくらいでしょう。これは野球界全体にとっても素晴らしいこと。大谷をきっかけに野球に興味を持つ人が増え、大谷に憧れる子どもたちが1人でも多く、野球をするようになってほしいと思います。

 ここまで85試合以上を戦い、試合数で見るとすでにシーズンを折り返しました。二刀流の3冠王が生まれれば、これ以上に夢のある話はないでしょう。3冠王に届かなくても、今の状態をキープしながらぜひタイトルを獲得してほしいですね。期待しましょう。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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