メンバー外の最後の夏…「なぜうちの子が?」 “不満だらけ”の保護者にならないために

野球講演家として活動する年中夢球さん【写真:伊藤賢汰】
野球講演家として活動する年中夢球さん【写真:伊藤賢汰】

野球をする子を誇りに思えるかどうかが“最後の夏”に表れる

 小さな頃から甲子園を目指し、白球を追いかけてきた高校3年生たちが迎える“最後の夏”。レギュラーを勝ち取った者がいる一方で、ベンチ入りを果たせず悔し涙を流す選手もいることだろう。そんな時、保護者としてどんな言葉をかけてあげるべきなのだろうか。リトルリーグなどで約20年指導者を務め、野球講演家として活動する年中夢球さんがアドバイスを送る。

「スタンドで応援する我が子を誇りに思えるのか、思えないのか。まずはそこが、親の視点で一番大切なことです」と年中夢球さん。なぜ野球に打ち込む子どもたちを支えてきたのか。もちろん、試合に出て活躍してもらいたい思いはあるだろうが、それ以上に、「野球というスポーツを通して、生きていく上で大切なことを学んでほしい」という願いがあったはずだ。

「『うちの子は一生懸命やっているのにレギュラーを取れません』という親がいますが、『一生懸命やっているお子さん、最高じゃないですか』と僕は言いたい。頑張った我が子を誇りに思ってほしいのです」

 これまで、野球をする子をどのような視点で見つめてきたか。それが、保護者としての“最後の夏”に表れるという。少年野球の時から「レギュラーに入れたか」「試合に出られたか」ばかりで判断していると、最後の最後で子どもが背番号をもらえなかった時に納得がいかず、不満を抱えてしまうことになる。

「野球が『うまいか下手か』ではなく、野球が『好きかどうか』。その1点だけで子どもたちを見てほしい。最後の夏に『なんで、うちの子が?』とならないように。それは、少年野球の親御さんたちにも、常に伝えていることです」

全国各地で「ありがとう」の花がいっぱい咲くように

 小さい頃から野球に打ち込み、高校3年生まで続けることができた。それ自体が「奇跡なんです」と年中夢球さん。中には故障をしたり、指導者やチームメートと合わなかったり、様々な事情で途中で野球をやめてしまう子たちもいる。だからこそ、たとえ最後、スタンドで応援する立場になろうとも、その姿に“誇り”を持ってほしいのだという。

 そして、その“奇跡”は決して子どもたちだけのものではない。年中夢球さん自身、コロナ禍の影響で、息子の最後の夏を球場で応援できず、スマートフォンの速報画面を見つめるしかなかったという、つらい経験をしている。

「また、鹿児島の徳之島高校の野球部は、船で何時間もかかる離島にあるため、県8強に入らなければメンバー外の子は応援に行けないそうです。つまり、『頑張ってこいよ』と港でメンバーを見送って、そこで夏が終わってしまう可能性がある。ですから、『スタンドで応援する我が子を見守れる』ことすら“奇跡”。親にとって、決して当たり前のことではないのです」

「当たり前」の対義語は「ありがたし」。だからこそ、ラストをグラウンドで迎えようとスタンドで迎えようと、保護者が子どもたちにかけるべき言葉は「ありがとう」の一言だと、年中夢球さんは語る。「最後まで野球をやり遂げるのも『ありがたし』。親が子の姿を球場で見られるのも『ありがたし』。高校野球最後の日に、全国のあちこちで『ありがとう』の花がいっぱい咲いてほしいですね」。

 ゲームセットの瞬間まで「野球が好き」であり続けることができた球児たち。その“誇り”と“感謝”を「ありがとう」の一言に込めて伝えてほしいと年中夢球さん。それが、次なるステージに向かっていく子どもたちにとって、後押しとなる言葉になるはずだ。

(高橋幸司 / Koji Takahashi)

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