地元球団からドラ1指名も「絶対に行かせん」　父を激怒させた事実無根の“銭金”報道

山崎隆造氏は崇徳から立大進学予定も…地元・広島がドラ1指名

　進路は思わぬ展開で決まった。元広島で野球評論家の山崎隆造氏は1976年ドラフト会議で広島から1位指名された。崇徳（広島）では3年時に選抜で優勝し、夏の甲子園にも出場。そのチームのキャプテンで「1番・遊撃」の逸材はプロから注目されていたとはいえ「1位はびっくり仰天でした」。うれしかったが、当初は大学進学予定。加えて“思わぬ一件”まで発生して父親がプロ入りに大反対。それを何とかクリアして入団にこぎつけた。

　ドラフト前の山崎氏は「自分としてはプロなんてとんでもないという感覚だった」という。プロ数球団が興味を示していたが、まずは大学進学を考えていた。「甲子園で優勝したし、崇徳もこの機会に大学のルートを開拓しなければいけないということで、東都が中心だったけど、東京六大学にも進出するといって、（捕手の）応武が早稲田に行って、僕が一応、立教に行く予定だったんです。立教の寮も見に行ったんですよ」。

　当時の立教大野球部・菊池完監督と食事もしたそうだ。「しゃぶしゃぶでした。それまで僕は食べたことがなくて、食べ方もわからなかったんです。だから、ああ、こうやって食べるんだって思ったのも覚えていますね」。まだ合格していたわけではなく「勉強してくださいって資料がいっぱい来ましたけどね」というが、いずれにせよ、その時は大学に行くことしか頭にはなかった。そんな中でのドラフト指名。しかも地元カープの1位だったから、気持ちは揺れ動いた。

　1976年当時のドラフト会議は予備抽選、本抽選で順番を決めて選手を指名していくシステム。その年の広島は山崎氏のチームメートで崇徳のエース・黒田真二投手を1位指名すると見られていた。だが、広島は11番クジを引き、2つ前の9番クジを引いた日本ハムに黒田投手を指名されてしまった。「それも僕の運命だったんですよね。黒田を指名できなかったんで、カープは僕を1位に指名したような形でしたからね。おったまげですよ」。

崇徳高から4人がドラフト指名…2人が拒否した

　一気に山崎氏はプロに傾いていった。「プロに全然行く気がなかったのがドラ1で指名。やっぱり18歳の子どもですし、浮かれましたからね」。だが、結論は簡単に出せなかった。「親は『よう考えろ』という感じで借金してでも大学に行かせるというようなスタンスで反対していたので、家族会議じゃないけど、いろいろ話をしていたんです」。そんな時に予期せぬ出来事があった。「スポーツ紙に契約金をつり上げるために結論を延ばしているような記事が出たんですよ」。

　この事実無根の報道に父・直三さんが激怒した。「親父は貧乏してても銭金のことを言うタイプじゃなかったんで、ものすごく怒って『絶対プロには行かせん』ってなったんです」。軽い反対から強烈な大反対へ。そこを山崎氏が懸命に「行かせてほしい」と説得したという。「最後は親が折れてくれた感じだった」。押し切れた最大の要因は、指名したのが地元カープだったこと。「カープ以外だったら無条件で大学に行っていました。とにかくカープが決め手でした」。

　この年、崇徳から山崎氏を含めて4人がドラフト指名された。日本ハム1位指名の黒田投手は入団を拒否して、社会人に進み、その後ヤクルト入りしたが、プロでは活躍できなかった。応武篤良捕手は近鉄に3位指名されたが、拒否して早大に進学した。「3番・中堅」だった小川達明外野手は広島に5位指名されて入団。プロでも山崎氏と同僚になった。1976年11月19日のドラフト会議はまさに運命の分かれ道だった。

（山口真司 / Shinji Yamaguchi）