メジャー剛腕を目標に58歳でも現役 女子野球最年長投手がこだわる「豪快フォーム」

女子硬式野球チーム「侍」の現役最年長左腕・千葉奈苗【写真:田中健】
女子硬式野球チーム「侍」の現役最年長左腕・千葉奈苗【写真:田中健】

「21」は45歳まで投げ続けた剛球投手の背番号

 女子硬式野球の普及発展を目的に開催され、「U-15」「高校」「大学・企業・クラブ」の3カテゴリーに分かれて覇権を争うヴィーナスリーグ。同リーグに参戦するグラブチーム「侍」に所属する左腕・千葉奈苗さんは、58歳の女子硬式野球の現役最年長投手だ。

 7月8日、尚美学園大戦。侍のエースナンバー「18」を背負う亀谷なる実投手は、初回に1点を献上しながら、粘り強い投球で散発4安打の7回1失点完投、チームを勝利に導いた。一方、千葉さんがつけるのは「21」だ。「同じ背番号21の左投手の動向は、やはり気になりますね。昔ならV9時代の高橋一三さん、少し前なら宮本和知さん(いずれも元巨人)、最近なら和田毅さん(ソフトバンク)、今永昇太さん(DeNA)ですね」。

 千葉さんが「21」をつけた理由と目標は、メジャーの大投手だった。MLB史上最多7度のサイ・ヤング賞を受賞したロジャー・クレメンス(レッドソックスほか)だ。「右投げの剛球投手。レッドソックス時代の背番号は21。45歳まで投げ続けました」。もう1人はノーラン・ライアン(エンゼルスほか)。「彼も右投げですが、デビューした18歳の時も、引退した46歳の時も150キロの速球を投げました」。

「それくらいまで野球をやれたらいいなという願望でした」。いずれも右投手だが、「剛球投手であり、投手寿命が長かった」点が、千葉さんの挙げた2投手に共通する。

メジャーの投手を目標に掲げるには理由がある【写真:田中健】
メジャーの投手を目標に掲げるには理由がある【写真:田中健】

「MLB投手の方が参考になる」

 さらに、千葉さんがメジャーの投手を目標に掲げるには理由がある。本職がトレーナーということもあり、こんな説明をしてくれた。

 千葉さん自身は「肩関節の可動域が狭い」という。女性には可動域が広い投手が多いが、広いことが一概にいいわけでもなく、関節が不安定になって「ルーズショルダー」を誘発しやすい。そんな話を聞くと、可動域が広かったが、肩を痛めた「高速スライダー」の伊藤智仁さん(元ヤクルト)を思い起こさせる。

 逆に千葉さんは肩の可動域が狭くて硬いゆえ、投手として長持ちしているのかもしれないというわけだ。「腕をしならせて投げるNPB投手より、投球のスタンスが狭くても、体が硬くても、投げ切ってしまうMLB投手の方が参考になるんです」

 千葉さんは今どき珍しい豪快な「ワインドアップモーション」だ。「ワインドアップでフォロースルーが大きい」投球フォームは、50歳まで投げ続けた左腕・山本昌さん(元中日)をほうふつとさせる。山本昌さんは、球離れの遅い“135キロの剛球”を投げた。「ワインドアップにはこだわりたいですね。現在の課題は、セットポジションになった時のクイック投法です」と、千葉さんはさらなる高みを目指す。

「山本昌さんはやめちゃうけど、千葉さんやめないでくださいね」

 ワインドアップで投げられる状況は無死、1死、2死の走者なし。つまり走者有無の状況24通りのうち、3通りしかない。「それなら最初からセットポジションで投げたほうがいい」。そんな考えが浸透して久しい。

 ひと昔前は山本昌さん、今中慎二さん、川上憲伸さん(いずれも元中日)、三浦大輔(元横浜、現DeNA監督)、内海哲也(元巨人)らのように、左投手も右投手も三振を奪える「ワインドアップ」の本格派投手が多かった。しかし、現在は「セットポジション」がスタンダードで、「ノーワインドアップ」でさえ、山本由伸(オリックス)が目立つくらいだ。

 山本昌さんと千葉さんは同じ1965年生まれ。同い年の同じ左腕が50歳で現役を引退した時、千葉さんは「山本昌さんより現役を続けてしまう。どうしよう……」というのが素直な心境だったという。かつて「侍」に在籍し、現在は高校女子野球部の監督を務めている元チームメートからは、こう声をかけられた。「山本昌さんはやめちゃうけど、千葉さんやめないでくださいね」。

「子どもの頃、テレビアニメで見た『野球狂の詩』の大左腕・岩田鉄五郎は58歳だったんですよね」と千葉さん。その年齢と並んだ。しかし、岩田は72歳で選手兼任監督として現役復帰を果たしている。千葉さんも「還暦投手」が視野に入り始めた。

(石川大弥 / Hiroya Ishikawa)

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