試行錯誤の新制度「クーリングタイム」 ネットは賛否も…甲子園出場監督&球児の本音

今年の夏の大会から、熱中症対策として、5回終了後に10分間の「クーリングタイム」が導入された
今年の夏の大会から、熱中症対策として、5回終了後に10分間の「クーリングタイム」が導入された

第105回全国高校野球選手権大会から導入された「クーリングタイム」

 高校球児の体を守るため、近年は球数制限などの新ルールが加わっている。今年の夏も新たな取り組みが行われた。第105回全国高校野球選手権大会では熱中症対策として、5回終了後に10分間の「クーリングタイム」が導入された。試合の流れが変わる、急激に体を冷やすことで体への影響もーー。ネットでは様々な意見が飛び交っているが、実際に体験した現場の声を集めてみた。

 炎天下でのプレーは限界に近づいている。今夏の開幕戦は最高気温37度を計測。グラウンドでの体感は40度を超えるとも言われ、近年は足をつる選手が続出。開会式でも給水タイムが設けられるなど、夏の甲子園も徐々に変化を見せている。

 そんな中、今大会から注目を集めたのは「クーリングタイム」だ。チームは5回終了後に10分間の休息が与えられる。ベンチ裏にはクーラーや送風機が設置され、水分補給やネッククーラーなどで体を冷やすことができる。実際にサーモグラフィーで測ると、“冷却前”には体の熱が40度を超える選手もいたという。

 選手を守り、試合で力を存分に発揮できるよう導入された新制度。だが、開幕直後は“休息”した後の6回に足をつる選手が相次いだ。地方大会から「クーリングタイム」が導入されている県もあれば、甲子園で初めて経験するチームもあった。「体を冷やす=足がつる」ことが全ての原因とは言い切れないが、各校の監督たちの意見は様々あった。

 共栄学園戦(東東京)では先発投手を含め4人が足をつった聖光学院の斎藤智也監督は、「野球以外のことで、暑い寒いの意識があんまり膨らみ過ぎると困るという意味ですね。クーリングって言葉にだまされちゃダメ。暑さに対する選手らの抵抗感が、変に助長されるのが怖かった」と、試合後に本音を口に。福島大会でも水分補給を徹底し、誰一人、足をつる選手が出なかっただけにショックを隠しきれなかった。

智弁学園の小坂監督は「イニング間も水分補給くらいは選手に十分な時間を与えてほしい」

 新制度に賛成しつつも、根本的な部分の改革を訴えたのは智弁学園の小坂将商監督だ。5回終了だけでなく「イニング間も水分補給くらいは選手に十分な時間を与えてほしい」と指摘。捕手なら打順の兼ね合いで急いで防具をつけるケースもあり、十分な休息がないままグラウンドに飛び出していく。“一極集中”ではなく”満遍なく”、時間を与えてほしいことを願っていた。

 北海(南北海道)の平川敦監督も「血液を冷やすのはいいが、筋肉が冷えるのはダメ」と、選手には着替えをいつも以上に多めに持参させていたことを明かす。急激に筋肉を冷やし、再び灼熱のグラウンドに出ることは通常のプレーに支障をきたす恐れが出てくる。

 10分間の使い方も改善の余地はある。クーリングタイムでは残り時間1分30秒からしかグラウンドでのアップは認められていない。継投策を考えると後攻の投手はブルペン入りの時間が削られる。先にグラウンドに出るのも後攻チームで、“寒暖差”が出やすいともいえる。

 実際に今大会でプレーした、ある球児の言葉が一番、的を射ていたと思う。

「守りで常にボールを投げたり捕ったりするバッテリーは助かる。ただ、僕ら野手はベンチで休む時間もあるので、そこまで必要かと言われると……。足がつる原因は水分不足もありますが、一番は試合前の準備だと思います。アルプスで応援してくれる先輩、後輩。父兄、応援団の方が一番きつい」

 ネット上では賛否両論あるが、現場を預かる監督たちは決して否定的な意見はない。試行錯誤しながら、高校球界全体で最善の策を考え次世代に繋いでいくことを望んでいる。

○著者プロフィール
橋本健吾(はしもと・けんご)
1984年6月、兵庫県生まれ。報徳学園時代は「2番・左翼」として2002年は選抜優勝を経験。立命大では準硬式野球部に入り主将、4年時には日本代表に選出される。製薬会社を経て報知新聞社に入社しアマ野球、オリックス、阪神を担当。2018年からFull-Countに所属。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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