大谷翔平の“今季終了”で曇った心 ヌートバーが「勇気づけられた」水原通訳からの返信
大谷翔平の故障離脱を受け、ヌートバーが明かした重い胸の内
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本代表「侍ジャパン」に日系選手として初めて招集され、3大会ぶりの世界一に貢献したカージナルスのラーズ・ヌートバー外野手。Full-CountではMLB公式サイトのカージナルス番ジョン・デントン記者の取材をもとに、等身大のヌートバーを伝える月2回の連載「ペッパー通信」をお届けしている。第8回は右肘靭帯の損傷が判明し、その後の右脇腹の怪我で今季の残り試合出場を断念したエンゼルスの大谷翔平についての思い。【取材:ジョン・デントン、構成:木崎英夫】
エンゼルスの大谷翔平が負傷者リスト(IL)に入り、残るシーズンをプレーしないことが正式に発表されたのは16日(日本時間17日)のこと。その翌日、ヌートバーに聞いた。
表情が曇った。
「そのことはきのう知った。正直、困惑した。ショウヘイは投げて打って走っての大活躍を毎日してきたスーパーアスリート。ただひたすらフィールドで躍動することにまさる贅沢はないという男だ。おもんぱかる? 彼のいまの心裏を察することなんてできるわけがないよ。だって、一番の贅沢をなくしてしまったんだから……」
WBCで大谷の野球に取り組む真摯な姿勢に感銘を受けた。その盟友が不運にも離脱した。ヌートバーの特徴的な早口は減速。息継ぎを意識するように慎重に話した。重い胸の内が伝わってきた。
沈黙の時間を切り裂く空気を感じ取った――。言葉を継げないでいた私と目が合うと、ヌートバーが切り出した。
大谷の野球への情熱と勝負への意志は「誰も及ばない」
「実は、ショウヘイの右肘靭帯の一部が損傷しているということが発覚したあとに、僕は通訳を務めるイッペイ(水原一平さん)にショートメッセージを送った。そしたら、返事がきたよ。『心配はいらないですよ。もっと強くなってまた戻ってきますから!』って。僕のほうが勇気づけられた。心から信じている。だって、彼の野球に燃やす情熱と勝負への強靭な意志は誰も及ばないと思っているから」
通訳が発した言葉のコンテクスト(文脈)から、大谷は右肘の精密検査結果を知ったあとには、なんらかの手術を受ける覚悟を決めていたのだろう。
苦難のない人生などない。しかし、情熱を持ち続けられることがある人間はどんな荒波にも耐えて乗り越えることができる。大谷には背中を押してくれるたくさんのファンの存在があり、また大谷の存在に夢を見出す瞳を持っているメジャーリーガーもいる。
ヌートバーは、身近にいる同僚や他のチームの選手たちの気持ちを明らかにした。
「カージナルスの仲間たちも遠征先で言葉を交わす選手たちも異口同音、今回のショウヘイの件は今年最も気に病むことだとしている。それとFAでチームメートになれるかもなんて期待している選手も結構いるよ、僕も含めてね。今季は2桁勝利と40本塁打の歴史的な記録を達成している。こういうことになって本当に残念だけど、多くのメジャーリーガーたちが来年の復帰を心待ちにしているんだ」
ヌートバーと話をしてから2日が経った19日(同20日)、クラブハウスで顔を合わせると、彼は思い出したように「ひとつ」と言って、大谷とメジャー初対決を果たした5月のエピソードを披露してくれた。
オフにWBCメンバーと再会予定…覚えた日本の歌を披露する予定だという
「僕は日本語ができないけど、WBCの予選を戦っているときに日本語の歌を一つ覚えたいなと思ったんだ。それで、お母さんたちが帰る日に空港へ送る車の中で、それを歌った。完璧じゃないけど、みんな笑顔で一緒に歌ってくれた。その曲はヒミツ。オフに日本に行って、WBCの仲間たちとカラオケに行く計画をしているから。そこで驚かせたいんだ。だから公表はできない」
無垢な笑顔がはじけた。
カージナルスとの3連戦でセントルイスに来た大谷に、ヌートバーは初戦の前日に連絡を入れ食事に誘っているが、睡眠時間を確保したいとの理由で断られたことは日米メディアがこぞって報じていたが、最終戦のデーゲーム終わりでロサンゼルスへ戻る家族を空港へ送った際の心温まる話である。
侍ジャパンの優勝から始まった2023年のシーズンにヌートバーは指、腰、腹部を痛め3度の負傷者リスト入りを余儀なくされた。起伏に富んだこのシーズンも10月1日で終わる。
明かしてくれた小さなエピソードには、すっきりとフィニッシュしたいという切なる願いがこもっていた。
(「MLB公式サイト」ジョン・デントン / John Denton)