巨人・阿部新監督は「やりやすい」 V9戦士が求める自覚…名将に押し上げる“選手の力”
柴田勲氏が分析…球団も本人も準備万端での1軍指揮官“登板”
巨人は、通算17年間にわたり率いてきた原辰徳氏から、阿部慎之助新監督に指揮官のバトンが渡った。日本で初めてスイッチヒッターとして通算2000安打を達成し、セ・リーグ最多579盗塁をマークするなど、外野手として巨人9連覇に貢献した柴田勲氏は、1軍監督就任が決まった際に「あんまり構えないで阿部野球をやればいいよ」と電話でアドバイスしたという。新生ジャイアンツへの期待を聞いた。
阿部新監督は44歳の若さ。それでも柴田氏は、球団も本人も準備万端での“登板”と推測する。「僕は阿部の現役引退セレモニーを見た時に、原の次は阿部だと確信していました。巨人では盛大な引退セレモニーは、そんなにないんですよ。長嶋茂雄さん、王貞治さん、原。みんな監督を務めています。そして阿部。巨人軍も次は阿部と考えて、それなら何をさせようかと計画していたのではないでしょうか」。
阿部監督は現役引退後もジャイアンツの現場から離れることなく、まずは2軍監督を経験。さらに1軍作戦兼ディフェンスチーフ、1軍ヘッド兼バッテリーコーチを務めるなど、原前監督の下、4年間チームを把握した。「原から『俺から監督を引き継ぐ時のために勉強しろよ』と言われていたはず。僕の想像ですけど」。予言通り、今シーズン最終戦終了後の原氏の退任セレモニーで“公開バトンタッチ”となった。
巨人はリーグ優勝を3年連続で逸した。クライマックスシリーズ進出さえ2年連続で逃している。新人監督には、なかなか荷が重い状況にも見える。しかし、柴田氏は「かえって、やりやすいんじゃないかな」と指摘する。
柴田氏は同じV9メンバーだった長嶋氏の監督1年目(1975年)を述懐する。抜群の手腕を発揮してきた川上哲治監督から現役引退直後に采配を託されたものの、最下位に終わった。「長嶋さんは現役からすぐ監督で、思わぬ最下位だった。本当に大変そうでした。阿部は若いですけど、2軍も1軍も指導してきた。順序を踏んで、ずっとやってきていますから」。
「優勝を争うだけの戦力はある」…ポイントは遊撃・門脇誠のバッティング
来季に向けた現状の戦力はどうなのか。「若手が出てきている。外国人をどうするのかという課題はありますが、優勝争いができるだけの選手はいると思いますよ」。投手陣ではエース格にのし上がった戸郷翔征投手、初めて10勝の山崎伊織投手、野手でも高卒3年目で2ケタ本塁打を放った秋広優人内野手らのさらなる躍進を楽しみにする。
今シーズン途中から遊撃だった坂本勇人内野手がサード、三塁だった岡本和真内野手がファーストに移り、ショートには門脇誠内野手がスタメン定着するなど布陣が固まってきた。「今の坂本と門脇の遊撃の守りを比べたなら、坂本の負担を軽くしてやろうと。坂本も岡本もあれだけの実績がある選手なので、阿部監督も2人とそれぞれ『どのポジションがいいのか』と話し合っているでしょう」と理解する。
巻き返しのポイントには門脇を挙げる。ルーキーながら126試合出場で打率.263。「守備は素晴らしい。来年も門脇がショートで出続けてくれなきゃならないのですが……。1年目の成績というのは、まだどうなっていくのか全然わかならい。だから来シーズン、門脇を使ってみて打率が2割ちょっととかだと、起用しにくくなる。2割7分なら十分です」。
プロ野球の歴史にさん然と輝くV9。その主力だった柴田氏は、当然ながら巨人復活を熱望する。「巨人軍が強くないと、僕らは試合を観戦に行っても解説していても面白くない。やっぱり強い巨人になってほしい。チームを強くする割合としては、私は監督やコーチは大したことがないと考えます。選手の力。これこそが監督を名監督に押し上げるし、また駄目にもする」。まずは選手個々に自覚を促す。
その上で、阿部新監督に対しても、愛すればこその発破をかける。「結果が全てですよ、結果が。ジャイアンツの監督だからね」。伝統球団としての責務を説いた。
(西村大輔 / Taisuke Nishimura)