ありがちな「球をしっかり見て」の落とし穴 名コーチが説く打撃向上への“最短距離”

トレーニングコーチの塩多雅矢氏【写真:伊藤賢汰】
トレーニングコーチの塩多雅矢氏【写真:伊藤賢汰】

2022年日本一の江戸川区立上一色中など約20校を指導する塩多雅矢氏

 誰もがわかっているようでいて、なかなか理解されていないのが「体幹」という言葉だ。体幹トレーニングは、本当に野球がうまくなる上で必須なのだろうか。Full-Countでは小・中学生などを指導している“凄腕コーチ”12人に取材。約20校の中学・高校野球部をトレーニングコーチとしてサポートし、2022年に全日本少年軟式野球大会で日本一に輝いた東京・江戸川区立上一色中では投手コーチを務めている塩多雅矢氏に聞いた。

 技術や感覚を言葉に置き換えるのは、非常に難しい。野球で「体幹」という言葉がこれだけ頻繁に使われるようになったのは、ここ10~20年のことではないだろうか。

 塩多氏は「一昔前には『腹筋・背筋』と呼んでいたものが、姿勢を保持する『プランク』というエクササイズが流行し始めた頃から、『体幹』という言葉に置き換えられてきた気がします」と分析し、「しっかり定義しないで、野球で何でもかんでも『体幹トレーニング』と言ってしまうと、本当に効果があるのかなと思ってしまいます」と警鐘を鳴らす。

 たとえば、「この選手は体幹が弱いのです」と塩多氏に相談する指導者がいる。「どうしてそう思うのですか?」と聞くと、「腹筋トレーニングの回数をこなせないので」という答えが返ってきた。

「それって、野球ではないですよね」と塩多氏。「ある現象が選手に見えた時、要素の1つとして『腹筋が弱い』ということはありえます。腹筋が強くなれば、この選手のパフォーマンスがこう変わるというところまで考えて言うのであればわかります」とした上で、「エクササイズありき、要素ありきではなく、やはり野球の現象は野球の用語で解決していくことが入り口ではないでしょうか。いきなり『体幹』に飛んでしまうのは、どうかと思います」と語る。

 バットを振るたびに、ふらついてしまう選手がいたとする。これを見て「体幹が弱い」と即判断する指導者もいるが、塩多氏は「最初に着手したいのは、バットの軌道がどうなっているかです。すごく遠回りして、バットが描く円の半径が広くなり過ぎて、支えるのが大変になってふらつく可能性もありますから」と説明。「まずは野球的なことで解決した方が、子どもたちもうれしいかなと思います」と強調した。

スタンドティーで「目をつぶって」打つ練習をさせる理由

 数多くの“誤解されがちな言葉”には、「球をしっかり見て打つ」というのもある。「研究データから、人間の目の動きでは投球をインパクトの2メートル前までしか追えず、それ以上見てしまうとバットが出てこないことが知られています」と塩多氏。

「しっかり見なければならないのは、ピッチャーが投げた瞬間から数メートルの間で、そこから先は予測になります。この予測の精度が、打撃がうまくいくか・いかないかをかなり決めます」

 だからフリー打撃は、投球がどこに来るかの予測と体の動きを合わせていく作業になる。一方、スタンドにボールを置いてのティー打撃は「ここと決めた所に、ちゃんとバットを通す練習」であって、試合ではミートの瞬間まで目で追えるわけではない。

 塩多氏は「スタンドティーでは、目をつぶって打つというタスクを選手に渡すこともありますよ」と笑う。固定されたボールの位置を脳裏に刻み、目をつぶって打つことは、ボールがどこに来るかを予測した上で、視覚に頼らずにスイングする実際の打撃と極めて近い作業だからだ。

 塩多氏11月27日から5夜連続で開催される「大人のための少年野球塾」に参加予定。言葉による誤解を解きほぐそうとするその姿勢は、まるで哲学者のようだ。

「練習も試合も、うまくなる場」…塩多雅矢コーチも“参戦決定”

 Full-Countと野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」では、11月27日から5夜連続でオンラインイベント「凄腕コーチ12人が技術指導 大人のための少年野球塾2023 ~子どもを伸ばすための集中講座~」を開催。小・中学生の現場で豊富な実績を持つ指導者や、話題の野球塾コーチ・トレーナー12人が出演し、オンライン配信で、選手たちを成長へ導くドリルやトレーニングを実技解説する。詳細は以下のページまで。

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(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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