50m「ほぼ7秒切り」 俊足小学生が駆け抜けた最高の1年…断ち切った“過去の自分”
全国3冠」からNPBジュニアに向かう新家スターズ・宮本一希選手
夏も冬も神宮のフィールドを疾駆した走塁マイスターが、年末恒例の学童球児の祭典「NPBジュニアトーナメント」にもオリックスジュニアの一員として登場する。50メートルを「7秒切るか切らないか」で走るという、大阪・新家スターズの宮本一希だ。
チームは8月の「高円宮賜杯第43回全日本学童軟式野球大会 マクドナルド・トーナメント」で初優勝。さらに、今月の「第17回ポップアスリートカップ」全国ファイナルトーナメント(くら寿司・トーナメント)も初制覇し、7月末の高野山旗(和歌山県開催)も含めて全国3冠を達成した。
「最高の1年でした」と振り返った宮本は、不動のリードオフマン。胴上げ捕手となった全日本学童はMVP級の働きだった。6試合で打率.625、二塁打7本に8盗塁(三盗4)。準決勝では124キロ左腕の藤森一生(東京・レッドサンズ=巨人ジュニア選出)から、左前へクリーンヒットを放っている。
ポップアスリート全国ファイナルは4試合で10打数3安打。率は下げたが、1回戦ではランニングホームラン(通算で20本前後)。決勝では右中間三塁打から敵失に乗じて先制のホームを踏み、第2打席では右前打から二盗、三盗を決めた。扇の要は後輩に譲って主に左翼を守ったが、ここでも爆発的な出足と俊足が光り、長打性の大飛球もことごとくグラブに収めてみせた。
指揮官の助言と異次元のスピードで「緊張しい」も卒業
通知表のような評価なら、攻守走のどれもが文句なしに「5」というオールラウンダー。ところが意外にも、レギュラーとなったのは最上級生(新チーム)になってからで、5年生までは非凡な能力を持て余していたという。就任13年目の千代松剛史監督が証言する。
「見てのとおり、あれだけの良い選手。ホンマは1学年上の代でもバリバリにやれたはずなのに、ひ弱というか緊張しいというのか。ちょっとなにかあると『お腹が痛い』と休みだす……」
元来、もの静かなタイプで、現在も口は達者でない。それでも、5年生までの自分を完全に断ち切ったという自負が本人にもあるという。
「チームを引っ張っていけたらいいなと思って、自分から『背番号0でいきたい』と言ったので」
新家スターズには、大黒柱となる選手が「0番」を背負う伝統がある。新チーム始動時に、それを申し出てきた宮本に対して、指揮官はこう助言した。
「オマエには足が速い、という良いもんがある。それで走塁を楽しめたら、野球の1つ1つを楽しめるようになるんとちゃうか!?」
それが金言であったことは、後の活躍ぶりが物語る。全国3冠を達成した千代松監督は、宮本の成長ぶりにも目を細めて語った。
「走塁がうまい子って、やっぱり守備もうまい。走る・守るができたら、あとはもう打つだけや。宮本は順番に楽しみながら、見事に3つをそろえてきましたね」
将来のことは「まだ何も考えていません」と宮本は繰り返す。「甲子園」や「プロ」などの単語も口にしない。
「いまの夢はオリックスジュニアで活躍することです」
己の武器を1つずつ増やしていったように、目指す高みも1つずつ、ということなのかもしれない。
〇大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」で千葉ロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中
(大久保克哉 / Katsuya Okubo)
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