「メジャー移籍はないです!」 今永流出危機で…2冠の左腕に芽生えたエースの自覚
今年2月12日、ヤクルトとの練習試合での2回5失点炎上が転機
DeNAの東克樹投手は19日、横浜市の球団事務所で契約更改交渉に臨み、今季年俸2610万円の約4倍の年俸1億500万円(金額は推定)でサインした。プロ1年目の2018年に11勝を挙げて新人王に輝いたが、その後は2020年にトミー・ジョン手術を受けた影響などで低迷。今季は試行錯誤の末、最多勝と最高勝率のタイトルを獲得し、ベストナインとゴールデン・グラブ賞にも初選出され、華々しく復活を遂げた。
「速球派から軟投派になりました」。東は復活の要因を、端的にそう表現する。昨年は“サプライズ”で初の開幕投手に指名されたものの、12試合1勝6敗、防御率4.62という不本意な成績に終わっていた。2020年2月に左肘のトミー・ジョン手術を受けて以降、ストレートの球威が戻っていなかった。
今年も2月12日のヤクルトとの練習試合(浦添)で3番手として実戦初登板した際、2回4安打1四球5失点(自責点4)と炎上。新鋭の赤羽由紘内野手に3ランを浴びた。「それまでは以前の自分に戻そうと必死だったのですが、あの試合が転機となって、新しい自分をつくろうと考えを改めました。生まれ変わりました」と明かす。
今季は24登板(24先発)で16勝3敗。防御率1.98はリーグ2位、4完投はリーグトップタイで、非の打ち所がない。ただ、奪三振率「6.95」だけは、プロ入り後最も低い数字、1年目の2018年は「9.06」だった。平均145キロ前後のストレートにチェンジアップ、スライダー、カットボール、ツーシーム、カーブを織り交ぜ、打たせて取った結果だろう。
来季以降についても「体は毎年変わっていくと思うので、その年に合わせたスタイルをシーズンが始まるまでに見つけて、しっかりつくり上げていきたいと思います」。野球人生を変える貴重な成功体験となったようだ。
初の沢村賞受賞にも意欲「現実味を帯びました」
チームではこのオフ、今季10勝を挙げたトレバー・バウアー投手が自由契約となりメジャー球団との交渉を優先。長くエースの座に君臨してきた今永昇太投手もポスティングシステムでメジャー移籍を目指している。28歳の東は、来季エースの自覚を求められる。本人も「今永さんが来季も残るのであれば、そういう自覚は芽生えなかったかもしれませんが、成績でも普段の行動でもチームを引っ張り、若い選手の見本になれるように頑張っていきたいと思います」と、その気だ。
契約更改後の記者会見では「今永投手はここ数年、契約更改交渉の席でメジャー移籍の希望を球団に伝えてきましたが、東投手は……」という報道陣からの質問の最中、食い気味に「(メジャー移籍直訴は)ないです!」と断言。笑いを誘った。
投手にとって最高の栄誉とされる沢村賞にも、意欲を示す。今季は同賞の選考基準7項目(25試合登板以上、10完投以上、15勝以上、勝率6割以上、200投球回以上、150奪三振以上、防御率2.50以下)のうち勝利数、勝率、防御率の3部門をクリアしたが、4項目クリアのオリックス・山本由伸投手に競り負けた格好だ。ただ、選考委員の間からは、東とのダブル受賞を推す声も挙がっていた。
「今までは考えたこともないタイトルでしたが、現実味を帯びました。来季以降、獲りたいと思います」と東。7項目のうち向上させていきたいのは、登板試合数と投球回数。奪三振数については「僕はもう軟投派なので、それほど多くは取れない。投球回数を増やすには球数を減らして打たせて取る必要があるので、奪三振は今の僕にとって重要ではないかなと思います」と認識をガラリと変えている。
生まれ変わった東が、押しも押されもせぬエースに、そして球界を代表する左腕になるために、再び歩き始めた。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)