慶応高が知的障害持つ球児と合同練習するワケ おそろいストッキングに見えた“絆”

同じデザインのストッキングで合同練習した青鳥特別支援学校生(左)と慶応野球部員【写真:宮脇広久】
同じデザインのストッキングで合同練習した青鳥特別支援学校生(左)と慶応野球部員【写真:宮脇広久】

特別支援学校で初めて西東京大会出場の画期的成果

 昨夏の甲子園大会で107年ぶりの全国制覇を成し遂げた神奈川・慶応高は20日、「甲子園夢プロジェクト」の一環として横浜市の慶応義塾日吉台野球場で、全国から集まった知的障害を持つ特別支援学校生ら33人と合同練習を行った。

「甲子園夢プロジェクト」は、特別支援学校生らにも甲子園を目指せる環境を提供することを目指して、2021年に発足。慶応高との合同練習は昨年1月28日以来5度目(オンラインでの1度を含む)だが、双方がこの1年間で大きく躍進した。

 慶応高が全国的な旋風を巻き起こした一方で、同プロジェクトの立ち上げに中心的な役割を果たした久保田浩司さんは、東京都立青鳥(せいちょう)特別支援学校の野球部監督に就任し、昨年5月に特別支援学校で初めて東京都高野連に加盟。夏の西東京大会に都深沢高、松陰大松陰高と連合チームを組んで出場し、初戦で都松原高に敗れたものの、19-23の激戦を演じた。

 実は青鳥特別支援学校の都高野連加盟が決まった後、久保田さんは慶応高・森林貴彦監督に「慶応高とおそろいのストッキングにさせていただいてよろしいですか?」と問い合わせた。森林監督は快諾しただけでなく、早速同じデザインのストッキングを購入して贈呈する粋な計らいを見せた。この日も、青鳥特別支援学校野球部員6人が、おそろいのストッキングの慶応高の部員からアドバイスを受けたり、グータッチを交わしながら練習する姿があった。

 久保田さんは「(特別支援学校生らにとって)野球のうまい子のプレーを実際に見て、一緒に練習することは、うまくなる秘訣です。指導者が理論的なことを言っても、知的障害で理解が難しいことがある。目の前でプレーしてもらうと吸収しやすい。真似をすることが一番です」と合同練習の意義を語る。

合同練習を前にあいさつする慶応・森林貴彦監督【写真:宮脇広久】
合同練習を前にあいさつする慶応・森林貴彦監督【写真:宮脇広久】

「本当のエンジョイ・ベースボールはこういうものかもしれない」

 一方、慶応高ナインにとっても、毎回得るものは大きいという。森林監督は「彼ら(特別支援学校生ら)は普段プレーするチームがない子も多く、合同練習ではゴロ1つを捕るにもストレートに喜びを表現します。こちらの部員はそれを見て、チームがあり、仲間がいて、毎日野球ができる喜びを再認識する子が多いようです」と説明。「感性豊かな高校球児が、勝ち負けだけを考えているのではもったいない。こうしていろいろな環境の子たちと交流し、刺激を与えられる機会をつくっていけたらと思います」と目を細めた。

 慶応高サイドではこの日、既に野球部を引退した3年生部員からも1人、合同練習に姿を見せていた。遊撃のレギュラーだった八木陽内野手だ。1年前の合同練習で知り合った愛知・大府市立大府中3年(特別支援学級)の日高晴登くんと連絡先を交換していて、再び合同練習に来ることを聞いていたからだ。

 八木は「日高くんたちの姿を見ていると、本当の(慶応高伝統のモットーである)“エンジョイ・ベースボール”とはこういうものかもしれないと思います」とうなずく。日高くんはこの1年、春の選抜大会、夏の神奈川県大会の準決勝と決勝、甲子園大会全試合、秋の国体に至るまで現地に足を運んで応援するほど、慶応高の戦いに熱い視線を送ってきた。

 前出の久保田さんは「今後の目標は、まず部員を増やし単独チームで西東京大会に出場すること。次に、選抜大会の21世紀枠の候補になれるくらいまで技術レベルを引き上げることです」と未来図を描く。日本一となった慶応高との合同練習が、強く背中を押してくれそうだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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