身長170cm、小柄でもプロ捕手になれたワケ 強打育てた“1日10回”からの積み上げ

元広島の木村一喜氏【写真:高橋幸司】
元広島の木村一喜氏【写真:高橋幸司】

元広島捕手の木村一喜氏は野球指導と鶏唐揚げ店経営の“二足のわらじ”

 横浜市などで小・中学生向けに野球指導を行っている木村一喜(かずよし)氏は、かつて身長170センチの小柄ながら、NPBの広島、楽天で捕手として活躍していた。体格のハンデを克服し最高峰でプレーできた理由を探る。

 木村さんは現在、“二足のわらじ”を履いて忙しい日々を送っている。平日は「tsuzuki BASE」が横浜市内で運営しているベースボールアカデミーでコーチを務めているのをはじめ、関東でパーソナルコーチとして小・中学生を指導。一方、週末の金・土・日曜は、長野県諏訪市の昭和30年(1955年)創業の老舗鶏唐揚げ専門店「五ヱ門」を1人で切り盛りしている。

「“小柄だからこそ大きい人に負けたくない”という思いが、プロになれた一番の要因だと思っています」。そう語る木村氏は、山梨県北巨摩郡小淵沢町(現・北杜市小淵沢町)出身で、山梨・帝京三高時代から自分より大柄な先輩やライバルを押しのけ、1年の秋に「4番・捕手」に定着。2年の秋に主将に就任し、甲子園出場はならなかったものの、高校通算36本塁打をマークした。

 社会人野球の日本通運に4年間在籍した後、1999年ドラフト2位(逆指名)で広島入り。3年目の2002年には109試合出場、打率.314、出塁率.362、5本塁打、28打点と自己最高の成績を残した。2007年限りで戦力外通告を受け、2008年に楽天で1年間プレーした後、現役引退。強打の捕手としてプロ通算335試合、打率.261(587打数153安打)、出塁率.309、6本塁打、59打点の記録を刻んだ。

 負けん気の次に、プロになれた第2の要因は、「背が伸びない以上、パワーでカバーするしかない」と考え、筋トレに取り組んだこと。「今ほどトレーニングジムが普及している時代ではなかったので、腕立て伏せが中心でした。中1の時に1日10回から始め、徐々に回数を増やし、高校では毎日120回を3セット、計360回を公式戦直前でも欠かしませんでした」と明かす。

 雪深い土地柄だったため、中学時代は野球のシーズンオフに冬季スポーツで足腰を鍛えたことも、強靭な肉体をつくるのに役立った。「自然環境がつくってくれた部分が大きいかったと思います。スケートは本当にしんどかった。あれに比べれば、野球の練習なんて“屁”みたいなものでしたから」と笑う。

現在は横浜市の「tsuzuki BASE」などで小・中学生の野球指導を行う【写真:高橋幸司】
現在は横浜市の「tsuzuki BASE」などで小・中学生の野球指導を行う【写真:高橋幸司】

高校・社会人・プロと恩師は“捕手ばかり”の奇遇

 第3に、観察眼を磨いたことが、捕手というポジションで成長していく上でポイントになった。くしくも、帝京三高時代の恩師の大原耕一氏(故人)、日本通運時代に監督だった杉本泰彦氏、広島入団時の達川光男監督、楽天時代の野村克也監督(故人)は全員捕手出身だった。

「ミーティングだけでなく、個人的に監督に呼ばれて話す機会も多かった。特別な技術を教わったことはほとんどありませんが、普段の会話の中で自然に、相手打者を観察して狙い球などを探ること、味方の投手の表情などから心理状態を把握すること、守備の“扇の要”としてどう振る舞うかなどを学びました」

 捕手としての経験は、打者として相手バッテリーの配球を読むことにも役立った。「僕の場合はどちらかと言うと、相手投手より相手捕手の配球を研究していました。たとえば(キャリアハイの)2002年、当時中日の谷繁(元信氏)さんがマスクをかぶった時には4割5分の対戦打率をマークすることができました。打った本塁打は全て、配球を読んだ狙い打ちでした」と振り返る。

 捕手というポジションは、小柄な選手には不利な要素が多いともいわれるが、木村氏にとっては“天職”だった。2003年には打撃を生かすためコンバート構想が浮上し、キャンプ、オープン戦を通じサードを守ったが、本人の強い希望で捕手に戻った。「捕手の“試合を動かしている感覚”が圧倒的に楽しかった。捕手がサインを出さなければ、投手は投げてこないわけで、試合が動きませんから」と目を輝かせる。

神奈川まで6時間かけ運転「教え子が甲子園に出たりする楽しみがある」

 現在、代表として切り盛りする「五ヱ門」は、もともと伯母の富樫良子さんが経営していたが、2017年に急逝。約100人の常連客の要望に応え、木村氏が引き継いだ。現役引退後に2年間、伯母の手伝いをして、秘伝のタレのレシピを頭に叩きこんでいたことが生きる形になった。2020年9月には店舗の老朽化に伴い、約50メートルの近隣に移転オープンしている。

 週末には諏訪から神奈川まで車を運転し、経費節約のため高速道路は避け、約6時間かけて通っている。「正直言って体は結構きついですが、野球を教えていると、教え子が甲子園に出たりする楽しみがある。店の方も、お客さんに『おいしい』と言ってもらえることを励みに頑張れています。収益につながることでもあるので、体力が続く限りやっていきたいです」と充実した表情を浮かべる。

 小柄な体格で奮闘していた現役時代同様、厳しい条件をものともせず、精力的な人生を歩んでいる。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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