巨人が“中学生育成”に参入するワケ 深刻な部員減…根本解決へ見据える「選手生活の先」

「ジャイアンツアカデミー」のセミナーで登壇したジュニアユース代表の大森剛氏【写真:高橋幸司】
「ジャイアンツアカデミー」のセミナーで登壇したジュニアユース代表の大森剛氏【写真:高橋幸司】

中学硬式「ジャイアンツ U15 ジュニアユース」を創設…愛称は“多摩川ボーイズ”

 巨人が中学硬式野球チーム「ジャイアンツ U15 ジュニアユース」を創設し、今月から練習を開始した。「多摩川ボーイズ」の愛称でボーイズリーグの東京都西支部に所属する。背景には、中学部活の野球部員が極端に減少しているなど、球界にとって見過ごせない事情がある。かつて巨人、近鉄で強打者として活躍し、現在同チームの代表を務めている大森剛氏が創設の狙いを語った。

 ジャイアンツジュニアユースは、現在の小学6年生を対象に、昨年10月と11月に「練習体験会」を実施。最終的にメンバー24人が決定した。今年以降も、1学年20人前後のメンバーを加えていく予定だ。

 当面は土・日に練習。4月からは平日に週2~3日練習し、土・日は遠征を含め試合を多く行うという。練習は基本的に川崎市のジャイアンツ球場を、巨人の2、3軍が使わない午後6時以降に2〜3時間利用。精密機器を配備したラボラトリー(研究室)、トレーニング場など、巨人選手のための施設を使えるのもメリットといえる。

 大森代表は1月27日、東京都内で開催された、小学生以下の「ジャイアンツアカデミー」会員とその保護者、約130人を対象にしたセミナーに、江戸川区立上一色中野球部監督の西尾弘幸氏、巨人の野球振興部長で高崎中央ボーイズ監督も務める倉俣徹氏と共に、講師として参加した。この場でも、ジャイアンツジュニアユースを設立した経緯を説明した。

「われわれがつくるのは硬式野球チームですが、軟式を含めた中学野球を全体的に盛り上げていきたい」と強調。というのも、中学の軟式野球部員は全国に約13万人いるといわれるが、10年前に比べると半分に減り、人数ギリギリや合同チームで大会に出場する中学もある。公立中学教員の“働き方改革”で、部活動に関わる先生が減っている傾向もあり、部活動の機能が将来的に地域クラブへ移行するとの観測があるものの、極めて不透明な状況だ。

 一方、ボーイズ、リトルシニア、ヤング、ポニー、フレッシュの5団体が分立する中学硬式野球チームのメンバーは約5万人で、近年横這いだという。

「ジャイアンツ U15 ジュニアユース」の監督を務める片岡保幸氏(右)と大森氏【写真:読売巨人軍提供】
「ジャイアンツ U15 ジュニアユース」の監督を務める片岡保幸氏(右)と大森氏【写真:読売巨人軍提供】

「中学3年間で指導ノウハウにも興味を持ってもらいたい」と大森代表

 大森代表は「サッカーのJ1、J2は全球団がU-18、U-15、U-12のチームを保有している。プロ野球12球団も小学生以下のためのアカデミーは浸透したので、次はU-15世代に関わり、ユースチームを広げていければ」と将来像を描く。

 チームのコンセプトとしては「G3(トリプルゴール)ビジョン」を掲げている。第1に、トップ選手育成。大森代表は「将来プロ野球選手になってほしいので、12〜13歳の子どもたちが10年後の22歳前後に最大の力を発揮できる指導をしていきたい」と力を込める。

 第2に人間力形成。「スポーツ界には『人間性が向上しなければ、競技力も向上しない』という格言があります。いい加減な生活態度をしていれば、いい加減なプレーが出るということを強調しながら指導していき、野球界に限らず広く社会で活躍するリーダーの輩出を目指したい」と説明する。

 第3は、社会貢献(還元)。ジャイアンツジュニアユースの監督には、現役時代に西武、巨人で内野手として活躍し、盗塁王にも4度輝いた片岡保幸氏が就任。コーチにも動作解析などスポーツ科学の専門家、NPB球団トレーニングコーチ経験者などを配置していく。「コーチ自身が指導力アップに努めながら、われわれがどういう取り組みを行っているかを、社会に発信していきたい」と語る。

「結果的にプロ野球選手になれる人がいれば、なれない人もいるだろうが、いずれにしても、プレーヤーとして引退した後は、次の世代に指導してほしい。(ジャイアンツジュニアユースのメンバーには)中学3年間で指導のノウハウにも興味を持ってもらい、長く野球を続けてもらいたい」とも。「中学野球人口減少の要因の1つは、指導者不足」との認識の下、将来的に数多くの有能な指導者を社会に輩出する狙いがある。

 巨人の中学野球への“進出”が、野球人口の減少に歯止めをかけるきっかけとなるか。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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