戦力外悟り、妻に「野球辞める」も…まさかの翌日撤回 プライド捨てて遂げた“復活”

元広島・小松剛【写真:本人提供】
元広島・小松剛【写真:本人提供】

元広島投手の小松剛さんは1軍登板なしの4年目に「焦りしかありませんでした」

 元広島投手の小松剛さんは、2008年ドラフト3位で法大から入団した。プロ1年目にいきなり5勝を挙げたものの、2年目にイップスに陥り暗転。3年目と4年目は1軍登板なしに終わって戦力外を覚悟したが、思わぬ形で復活を遂げた。現在は総合人材サービス「パーソルグループ」で営業職に就く小松さんが、現役時代を振り返った。

 2年目の5月を最後に、1軍マウンドから遠ざかっていた。毎年新しい選手が入団してくる厳しい世界で「妻も子どももいましたし、これではやばいなと焦りしかありませんでした」。そして4年目の夏、ある決断を下した。

「妻に『俺もう野球辞めるわ』と伝えました。潮時だなと悟って、ここでもがくよりも、次のステップに進まないとなと思ったんです」

 しかしこれが、苦しんでいた小松さんを変えた。「小学3年生から野球をやっていて、どんなつらい負け方をしてもどんな苦しいことがあっても、野球に対してやるぞという気持ちを持ち続けていましたが、初めてなくなった。それがよかったのか分からないんですけど、翌日いきなり投げられるようになったんです」。

 2年目からイップスに悩み、メンタルトレーナーをつけるなど徐々に改善していたところではあった。この頃は2軍で登板できるようになっていたが「騙し騙しだった」という。それが「本当の意味で何の迷いもなく投げられた。吹っ切れた瞬間だったんでしょうね」。そして妻に「契約があったらもう1年やらせてくれ」とすぐに“前言撤回”。妻は「あなたの選ぶ道だから」と背中を押してくれた。

プロ5年目は派遣選手で徳島へ…9勝&優勝貢献「来年カープで勝負できる」

 実際に“もう1年”を得ることができたが、プロ5年目は育成選手で再出発。派遣選手として四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスでプレーした。NPBを目指す若手たちに交じって汗を流す環境は過酷だった。ロッカーはなく、ファンから丸見えのベンチ裏で隠れながら着替えたことも。洗濯も食事も移動も、全て自分でやらなければいけない。はじめは受け入れることができなかった小松さんも、プライドを捨てて変わっていった。

「最初はとにかく早くカープに復帰したいから、ここは僕のいる場所じゃないみたいな。プライドもあったしここに染まってはいけないみたいな感覚で、自分から同僚と交流などしませんでした。でも一生懸命NPBを目指す子が質問しに来てくれたり真剣にやっている姿を見て、何かを残して帰らないと派遣で来た意味がないなと。そこからはコミュニケーションを取ったり、文句を言わずにその環境でどうやって自分が成績を残せるかを考えました。順応する力はあの1年で付いたと思います」

 先発の柱として9勝を挙げ、優勝に貢献。徳島を離れるときには涙が止まらなくなるほどチームへの愛情も芽生えていた。ステージは違えど復活を印象付け「技術もメンタルも、これだっていうものが合致していったので、『よっしゃ、これで来年カープで勝負できるかな』と思っていました」。しかし広島に戻ると、待っていたのは戦力外通告だった。

(町田利衣 / Rie Machida)

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