戦力外→裏方転身も「僕の方が投げられる」 後輩の活躍に“嫉妬”「悔しい思いが先に」
元広島投手の小松剛さんは2013年限りで現役引退後、広報などを務めた
元広島投手の小松剛さんは、2013年限りで戦力外通告を受けて5年間の現役生活に別れを告げた。現在は総合人材サービス「パーソルグループ」で、転職サービス「doda」等を運営するパーソルキャリアの営業職に就いているが、引退後の“第2の人生”は、広島の球団職員だった。広報と2軍マネジャーを計8年間。2016年には25年ぶりの優勝を広報として経験し、うれしい多忙を味わったが、裏方転身当初は葛藤と戦っていた。
現役最終年となったプロ5年目は、派遣選手として四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスでプレーし、9勝を挙げて優勝に貢献した。再びカープのユニホームで――。そんな希望を抱く中での戦力外通告に「頭が真白」と絶望を味わったが、恩返しのために球団職員として歩み出した。
しかし“裏方モード”にうつるのは、簡単なことではなかった。「やはり悔しいという思いが強かったので、最初は難しかったですね。現役選手を見て『いいな』と思ったり。昨年まで一緒にやっていた選手もいるし、ましてや年齢の近い人がまだユニホームを着ている。『頑張れ』と思うよりは『何で僕やったんやろう』とか『この選手より僕の方が投げられるな』とか、チーム内で1人だけ、そういう曲がった見方をしていたのではないかと思います」と率直な思いを打ち明けた。
開幕早々に、ドラフト2位新人だった九里亜蓮投手が中日戦でプロ初勝利を挙げてヒーローインタビューを受けた。スポットライトを浴びている後輩を見ていることができず、名古屋市内の宿舎に戻るとジャージに着替えて思わず外へ飛び出した。「モヤモヤして気持ち悪くて、とにかく『ワーッ』って言いながら名古屋城くらいまで走りました。傍から見ると変質者ですけど、それくらいメンタルがきつくて、悔しい思いが先に立ってしまいました」。
25年ぶりのリーグ優勝や3連覇も経験「忙しかったけど楽しかった」
それでも選手に対するリスペクトだけは失わなかった。だからこそ、真剣に取り組む選手を見ていることで“嫉妬”の気持ちも薄れてきた。時間が解決してくれた部分もあるだろうが「必死に頑張っている選手を応援するのは、一番近くにいる僕だな」と変わっていくことができた。
2016年には、25年ぶりのリーグ優勝を成し遂げた。「光栄ですけど、まあ忙しかったです。優勝した瞬間も、喜びよりも次に自分は何をしないといけないのかというのが先に来ていたので実感はなかったです」と多忙を極めたが、一番の思い出に挙げるほど感慨深い出来事となった。そこから3連覇を達成し「あの3年間は裏方として誇りに思っています。忙しかったけど楽しかったし、チームに一体感があって雰囲気も凄く良かったです」と誇らしげに笑った。
2015年にはメジャーから黒田博樹氏が、阪神から新井貴浩氏が広島に復帰した。小松さんは「おふたりが復帰してから、チームが激変したんです」と証言する。「マスコミ対応や、スタッフに対しての気配り、当然チームメートへのコミュニケーションの取り方も素晴らしい。相手の立場になって考えて、1個2個先まで読んでいる。おふたりが帰ってきて、周りの選手もそれを見て変わったので、その影響力はあったかなと思います」。ここで生まれた“力”は、3連覇にもつながったのだろう。
「やはり人のために動くのって大変ですよね。人のサポートをするとか、チームのために自分が手足を動かすのって、簡単なようでマインドセットをしっかりしておかないと適当な仕事になってしまう。そういった意味では、人のために動くとか、人のことを考える。そういうことは考えながらやっていたので勉強になりました」。苦しみながらも受け入れ、全うした裏方業は、小松さんを一回り成長させてくれた。
(町田利衣 / Rie Machida)