“思春期の子”と親はどう向き合う? 野球3兄弟の母に学ぶ距離感「子は大人をよく見ている」
SNS動画400万回再生の「辰巳3兄弟」親子…本人が何かを話すまで“ほっとく”
左手にグラブ、右手にはバット。小気味よいテンポで3兄弟に連続ノックする女性の動画が、インスタグラムで再生回数400万回以上と大バズリしている。投稿主は、3兄弟の小学生を育てる辰巳静梨果(たつみ・せりか)さん。ほぼ毎日、親子で自主練習に励んでいる。その中で培った子育て論とは? 息子たちにとっては、母で、野球のコーチで、そして親友に近い関係、と自身の立ち位置について表現してくれた。
思春期に差し掛かる子は、親との会話や過ごす時間も減るものだが、辰巳家ではちょっと違う。長男・輝竜(きりゅう)くん、次男・輝真(てるま)くん、三男・輝一郎(きいちろう)くんの男の子3兄弟を育てる静梨果さんは、こう語る。
「学校での出来事や友達のこと、好きな子についても、聞かなくても教えてくれますね」
そんな良好な親子関係はどのように構築されているのだろうか。その理由は、普段からの野球を通じたコミュニケーションにあるようだ。
「練習でのミスや試合でのエラーをあとで、指摘するご家庭も多いと聞きます。でも、起こってしまったことに対して子どもを責めても仕方がない。だから私はまず“話を聞くこと”が第一」
その具体的な方法とは、本人が何かを話すまで“ほっとく”こと。
気持ちが落ち着くのを待ってから、「今日はどうだった?」とフラットな感じで水を向け、本人が「強いゴロが捕れなかった」「速球が打てなかった」とポツポツと反省を口にしたら、その意見を尊重することが大事だと話す。
「課題に対して、大人が出す答えはきっと最短距離かもしれない。でも本人が“やらされている”と感じたら、上達のための練習が嫌になるのではないかなと。息子が嫌なことはやらせたくないですし、野球って楽しいものだから。親や周りの大人ができるのは、環境を整えてあげることだと考えています」
「野球の練習はつらい」「もうやりたくない」を生まないために親ができること
静梨果さんは、本人が挙げた課題を重点的に練習できるメニューを考える。時にはSNSのフォロワーさんから教えてもらった方法を提案しながら、手を変え、品を変え、練習へと前向きに取り組めるよう息子たちをサポートしていく。
その“日常会話のキャッチボール”の成果は、辰巳3兄弟の練習動画を見れば一目瞭然だ。身近にある物から本格的な練習器具まで、さまざまなアイテムを活用しながら、野球の練習を全力で楽しむ姿がある。
辰巳家の練習について「質より量!」と静梨果さんは断言するが、課題を克服するための反復練習や、泣きながら猛練習する、とは程遠く、“いつの間にかできるようになっちゃった練習”といった表現のほうが正しそうだ。
最後に息子への接し方で心がけていることを尋ねると、「とにかく親の私が動くこと!」と明快な答えが返ってきた。
「口だけの大人には絶対なりたくないです(笑)。所属チームでもコーチとして息子以外の多くの子と接しますが、子どもは本当に大人のことをよく見ている。まずは私が動く、“ちょっと”やってみる。その姿を見せることじゃないかな」
昨今、少年野球チームの保護者からは、「野球はわからないので親はノータッチ」という声が聞かれることも少なくない。
“ちょっと”練習を見に足を運ぶ、“ちょっと”素振りの数を数えてあげる、“ちょっと”スマホで動画を撮る、“ちょっと”ランニングに付き合う、“ちょっと”親子でプロ野球中継を見る……。子どもの“好き”に親も向き合い、寄り添ってみること。それが思春期を迎えようとする野球少年への最強の応援であり、ちょうどいい距離感かもしれない。
(吉田三鈴 / Misuzu Yoshida)
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