引退後に「就職先ない」 転職サイト登録で10社面接…武藤祐太が進んだ不動産営業の道
元中日、DeNAの武藤祐太さんは2022年から不動産営業で“第2の人生”
中日、DeNAでプレーした武藤祐太さんは、2021年限りで現役を引退し、現在は株式会社リアルの開発事業部で不動産営業を行っている。戦力外通告を受け引退を決断してからは「心にぽっかり穴が開いた」と話すように、セカンドキャリアへの道のりは前途多難だった。
2021年は1軍出場がなく「今年で終わりだなと思っていた」と戦力外を覚悟していた。2010年ドラフト3位でホンダから入団した中日を2017年限りで戦力外になり、DeNAへ。このとき「ここで終わりにしよう。目一杯やって潔く辞めよう」と心に決めていたため、2度目の通告に迷いなく引き際を決めた。プロで計11年間を過ごし、在籍した両球団が見守る中での引退試合で華々しく区切りをつけた。
しかし“第2の人生”を考えたときには「就職先がなくてめっちゃ困った」というのが実情だ。球団での仕事を希望するもオファーはなく、自ら転職サイトに登録し、履歴書を書き、10社ほどの面接を受けた。
「好きなことに没頭できる」という強みをアピールするも、なかなか“内定”の知らせは来ない。「面接で驚かれることもありました。最初の方は『何でうちなの?』と聞かれたときに『働くためなんだけどな』と思ったりしてちゃんと答えられず……僕が世の中のことを知らなかったんです」。焦りは募った。
そんな中、「将来マイホームが欲しい」と思い描いていた武藤さんは、不動産業を展開するリアルグループの面接に挑んだ。実はこの日、時間を勘違いして2時間遅刻する大失態も、面接官は待っていてくれた。部屋に入ると、最初に言われたのは「引退試合、見に行っていたよ」という温かい言葉。縁がつながり、入社が決まった。
「選手が引退したとき助けてあげたい。僕がめちゃくちゃ苦労したので」
32歳にして始まった会社員生活は、苦難も多かった。「現役時代は電車もほとんど乗らなかったし、バスは乗り方すら分からなかったから毎回運転手さんに『どこどこ(目的地)に行きますか』って聞いたり……。パソコンは電源の入れ方も分からない状態でした」。それでも同僚たちに助けてもらいながら3年目となり「今では慣れましたよ」と笑った。
営業回りをして土地を仕入れ、家を建てていくのが現在の仕事内容。営業職だけにノルマにも追われる。1日中歩き続け、20~30社にアタックするも全滅はざらにあるのだという。インターホンを鳴らして怒られたことも数知れず。新しい世界は「きついっすよ、結構」というのが本音だ。
それでも「売れたときとか、やりがいを感じることは多いです」と充実感を口にする。また、次の目標も明確になった。
「自分で不動産屋だったり会社をやったりして、プロ野球選手が引退して次のステップに進むときに助けてあげたい。僕がめちゃくちゃ苦労したので、そういう役割をできたらいいなと思っています。今までは野球だけでしたけど、今はそこに向かって突っ走っています」
野球一筋で生きてきた武藤さんは35歳になった今、スーツ姿で満員電車に揺られながら、新たにできた夢を追いかけている。
(町田利衣 / Rie Machida)